3500-13-12-2-1

ツーリングの記録等に使おうと思っていたが。。。タイトルは最初の記事の3500km, 13日, 12ヶ国, 自動二輪, 空冷単気筒の意。

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我らをめぐるプラスチックの海

 プラスチック文明が引き起こすプラスチック汚染の環境と人間への影響について、調査と対策が必要です。

Silent spring in the ocean
Worm, Proc Natl Acad Sci USA 112: 11752 (2015)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26330606
 カーソンが「沈黙の春」を著した当時はDDTが有害とは全く思われていなかったのと同じように、無害と思われていたプラスチックがゴミとして思いもよらぬ影響をもたらしていることを訴える論文です。プラスチックゴミの海鳥への影響(消化管閉塞とゴミによる物理的拘束)のほか、微小プラスチック片特有の他の汚染物質との複合汚染も解説されています。問題解決のために、環境中へ放出されるプラスチックの量を減らすことの緊急性を指摘しています。

Marine plastic debris emits a keystone infochemical for olfactory foraging seabirds
Savoca et al., Sci Adv 2: e1600395 (2016)
http://advances.sciencemag.org/content/2/11/e1600395
 多くの海鳥がプラスチックを誤食する理由のひとつに、プラスチック上に生えた藻類により、オキアミと同じ臭いをプラゴミが発するようになるからという研究が発表されました。餌を探すのに臭いを手がかりとしている動物は海鳥だけでないので、こうした他の動物にも同じことが言えるのではないかと著者らは推論しています。

Bottles, bags, ropes and toothbrushes: the struggle to track ocean plastics
Cressey, Nature 536: 263 (2016)
http://www.nature.com/news/bottles-bags-ropes-and-toothbrushes-the-struggle-to-track-ocean-plastics-1.20432
 ネイチャーのニュース記事では、大きさが1ミリより小さいマイクロプラスチックの由来(多くは大型プラスチックの劣化などによる破砕)とともに、海に流れ込むプラスチックの見積もりと、実際の観察から見積もられたプラスチックの量には大きな隔たりがあり、行方不明となっているプラスチックが相当量あることが指摘されています。そして、微小プラスチックの問題について、証拠をこれ以上待つよりも、いま行動を起こさなければならないという研究者の合意があることを伝えています。

また、映画もあります。
A Plastic Ocean (2016)
http://www.plasticoceans.org/film/index.html
 サーファー兼ジャーナリスト兼映画製作者のリーソンが、海にあるプラスチックゴミの量に衝撃を受けて制作された映画。「もし我々が行いを改めなければ、2050年には魚よりもプラスチックの方が多くなっているかもしれません。」

プラスチック汚染の概説と対策はLiらが概説しています。
Plastic waste in the marine environment: A review of sources, occurrence and effects
Li et al., Sci Total Environ 566-567: 333 (2016)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27232963
01li et al
 海のプラスチックゴミの8割は陸上由来、2割は漁業活動など人間の海洋での活動によるものです。これらのゴミが直接的もしくは間接的に海鳥、海獣、ウミガメなどの生存を脅かすメカニズムを概説した上で、法規制による汚染の防止を筆頭に、プラスチック業界の責任や消費者の注意喚起という解決策を提示しています。

小さいサイズのプラスチック片が残留性有機汚染物質の運び屋になることはda Costaらが概説しています。
(Nano)plastics in the environment – Sources, fates and effects
da Costa et al., Sci Total Environ 566-567: 15 (2016)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27213666
02 da costa03 da costa04 da costa
 「ナノプラスチック」「マイクロプラスチック」に統一された定義があるわけではありませんが、これらの微小プラスチックは相対的に表面積が大きく、残留性有機汚染物質(POPs)と化学的親和性が高いこともあり、生物への影響が懸念されています。環境中のナノプラスチックの挙動はほとんど不明ですが、ナノサイズのプラスチックは細胞の中へ入ってくること(Salvati et al., 2011)、メダカでは脳血関門を通過すること(Kashiwada, 2006)は、ナノプラスチックに意外な毒性がある可能性を示唆するものです。また、生分解性をうたうプラスチックの中には、実のところ分解されない微小片が残るものがあり、これが微小プラスチックゴミとしてより多くの問題を引き起こすことを指摘しています。
 (論文中では触れられていませんが、プラスチックを多く生産消費する陸上でも、場所によっては(工場とか)大気中に飛散したナノプラスチックが高濃度になっており、健康に影響している可能性があるのではないかと思いました。)

Environmentally relevant concentrations of microplastic particles influence larval fish ecology
Lönnstedt & Eklöv, Science 352: 1213 (2016)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27257256
 サイエンスに掲載された論文では、マイクロプラスチックはヨーロピアンパーチの稚魚の生存率を下げることが示されました。
(2017.5.7追記 この論文は不正行為の疑いにより撤回された
http://science.sciencemag.org/content/early/2017/05/03/science.aan5763

 海に流れ出したプラスチックゴミは海洋生物の生存を脅かし、それが人間にも影響してくるであろうことが容易く予想されます。冒頭でWormが指摘していたとおり、カーソンが提示した問題は存在しつづけ、より重大になってきています。

 対策としては、プラスチックを自然環境中にこれ以上放出しないための制度作りが肝要です。

A Canadian policy framework to mitigate plastic marine pollution
Pettipas et al., Marine Policy 68: 117 (2016)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0308597X16300665
 プラスチック汚染を軽減するための大まかな施策として以下の4つが挙げられています。1)法整備とゴミ管理、2)教育啓発と知識の普及、3)汚染源の同定、4)モニタリングと調査。

JICAの語るサケ

南米チリをサケ輸出大国に変えた日本人たち ゼロから産業を創出した国際協力の記録
細野昭雄 ダイヤモンド社(2010)

 作者はJICA研究所上席研究員で、中身の多くは養殖技術開発や販路開拓の苦労話にさかれており、プロジェクト何とかとかいうテレビ番組が好みそうな話である。軍事独裁政権だろうがそれ以外の政権だろうが、養殖産業にとってはそれほどの障壁とはならなかったようで、政権交代の影響などにはそれほど言及されていない。サケ養殖産業がもたらした地元への影響は6章で論じられており、ある程度の経済効果は挙げたが、都市部と零細漁民の格差を解消するには至っていないとされている(現在サケ養殖による環境被害を訴えているチロエ島など)。また7章では、JICAの海外技術協力の特徴として、技術協力プロジェクト終了後も現地で事業を継続発展させられるよう、人材育成がなされるとある。

 チリのサケ養殖産業は経済的には確かに大成功だろうが、甚大な環境被害をもたらしているのも事実だ。そして、サケ養殖の環境影響を軽減するための方策も提案されている。

Salmon aquaculture and coastal ecosystem health in Chile: Analysis of regulations, environmental impacts and bioremediation systems
Buschmann et al., Ocean & Coastal Management 52: 243 (2009)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0964569109000350
159-1.png

The technology to reduce these impacts using integrated multi-trophic aquaculture (IMTA) strategies exists, but has not been implemented at commercial scales.

Despite these challenges, we feel IMTA should play a central role in the development of ecological sustainable net pen aquaculture in Chile and elsewhere



 JICAはもう「コメントできる立場」にはないようだが。
https://twitter.com/ishii_atsushi/status/757904087455113218

7500回の沈黙の春

 ナショジオで紹介されていた記事ですが、アメリカ先住民のある部族は、7500年をかけて(便利な材料として使っていたアスファルトに含まれる)多環芳香族炭化水素(PAH)に曝露され続けた結果、徐々に健康を蝕まれていった可能性が論じられています。PAHへの曝露は発がんやホルモンレベルの変化など種々の悪影響をもたらすわけですが、頭蓋容量や身長の減少は長い時間をかけて起こったため、当時の人間が現代並みに保健記録をつけていたとしてもこうした影響はなかなか明らかにはならなかったでしょう。(今日日の科学者様なら1週間曝露して変化がなければ未来永劫問題はないと断言してくれそうなもんだが)

Could the health decline of prehistoric California indians be related to exposure to polycyclic aromatic hydrocarbons (PAHs) from natural bitumen?
Wärmländer et al., Environ Health Perspect 119: 1203 (2011)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21596651
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 曝露される有害物がPAHだけなら影響が明らかになるのに数千年かかるかもしれませんが、何百種類もの化学物質による汚染や生物の大量絶滅、海のプラスチック汚染と人為的気候変動も抱える現在の人類が破滅を迎えるのにはそれほど長くはかからないでしょう。実際、オレスケスらもそのフィクションの中で、現代文明の崩壊を今世紀中という設定にしています(温暖化が崩壊の理由だが)。

 以前も触れましたが、現在、神経発生・発達だけに絞っても多くの化学物質が悪影響を及ぼすことと対策の必要性が訴えられています。多くの化学物質が神経発生や発達への影響評価なしに使用されているため、胎児や子供たちが日々こうした化学物質に曝露され続けていること、これらの化学物質の複合的影響はほとんど研究されていないことが指摘されています。

Project TENDR: Targeting Environmental Neuro-Developmental Risks. The TENDR Consensus Statement
http://ehp.niehs.nih.gov/ehp358/

 神経系の発生と発達に悪影響を及ぼすものとしてあげられいるのはPBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)、PAH、PCB、鉛、水銀などです。鉛については「Doubt is their product」の中でも取り上げられていて、ガソリンに鉛が含まれていた時代、アメリカ人の血中鉛濃度は現在よりも高く、多くの子供の神経系発達に影響したであろうことが論じられています。神経発生と発達においては、鉛曝露の安全なレベルなどないという科学的な合意が現在あるわけですが(Schnur & John, 2014)、かつて業界側は、鉛の濃度は影響する閾値以下なので規制する必要はないという論陣を張ったとDoubt is ther productの著者であるMichaelsは記しています。これは日本の核災害後の放射能汚染に対する政府や臣民の言説と瓜二つです。

 声明では、環境中の化学物質の科学的影響評価と政策決定のシステムが機能していないことを指摘し、子供たちへの化学物質の曝露を減らすことを訴えています。

 「沈黙の春」の最終章でカーソンが言った通り、今でも人類は破滅に向う高速道路をひた走っているのです。

チリのサケ(おかわり)

(前の記事の補足みたいなものを書いていたらもうハフポストに続報が出て、しかも参考文献がかぶってた。。。)

チリ産サーモンは、抗生物質のスープの海で泳いでいる!?~過剰使用が世界規模で健康を脅かす可能性
http://www.huffingtonpost.jp/konomi-kikuchi/chile-salmon-antibiotics_b_10314356.html

 サケ養殖一般に、病気や寄生虫の拡散、野生種との交配による遺伝子汚染などの問題があることは広く知られている。
Hatcheries and endangered salmon
Myers et al., Science 303:1980 (2004)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15044790

Undermining Science
Shulman, University of California Press (2006)

沈黙の海
ロヴィーン 新評論 (2009)

 チリで養殖されているサケはチリにおいては外来種であり、ケージから逃げ出した個体の野生化が引き起こす問題などがある。外来サケの増加に伴う在来魚種の減少、寄生虫や病気の拡散、外来サケの野性化と定着などの問題が論じられており、また逃げ出したサケの所有権を巡って社会的な問題が起きていることも指摘されている。
Escaped farmed salmon and trout in Chile: Incidence, impacts, and the need for an ecosystem view
Sepúlveda et al., Aquacult Environ Interact 4: 273 (2013)
http://www.int-res.com/articles/aei2013/4/q004p273.pdf

 チヌークサーモンは定着に成功しており(Ciancio et al, 2005; Di Prinzio et al, 2015)、外来サケの捕食による在来魚の減少も確認されている(Arismendi et al, 2009)。
Natural colonization and establishment of a chinook salmon Oncorhynchus tshawytscha, population in the Santa Cruz River, an Atlantic basin of Patagonia
Ciancio et al., Environmental Biology of Fishes 74: 219 (2005)
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10641-005-0208-1

Disentangling the contributions of ocean ranching and net-pen aquaculture in the successful establishment of Chinook salmon in a Patagonian basin
Di Prinzio et al., Environmental Biology of Fishes 98: 1987 (2015)
http://link.springer.com/article/10.1007/s10641-015-0418-0

Aquaculture, non-native salmonid invasions and associated declines of native fishes in Northern Patagonian lakes
Arismendi et al., Freshwater Biology 54: 1135 (2009)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2427.2008.02157.x/abstract

 Buschmannらはチリのサケ養殖の概説の中で、産業の急速拡大により規制が時代遅れのものとなっていること、養殖場の環境影響評価法の不備、薬剤使用の実態の不透明性、研究の不足などの問題点を挙げている。また抗生物質の使用量についてもノルウェーと比較して桁違いに多いことを指摘し、生態系などへの影響を懸念している。
Salmon aquaculture and coastal ecosystem health in Chile: Analysis of regulations, environmental impacts and bioremediation systems
Buschmann et al., Ocean & Coastal Management 52: 243 (2009)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0964569109000350
157-1.png
 チリのサケ養殖会社は複数あり、報道によると薬剤の使用量も会社ごとに違うようだが、日本のスーパーマーケットで目にするチリ産サーモンに養殖会社まで明記されている物があるのだろうか(少なくとも私の近所では単に「チリ産 養殖」としか表記されていない)。
Chile's embattled salmon industry up antibiotic use in 2015: Government
http://www.channelnewsasia.com/news/world/chile-s-embattled-salmon/2863512.html

Among large seafood companies, Australis Seafoods reported the most intense use of antibiotics, using 1,062 grams per tonne of fish. Cermaq, owned by Japan's Mitsubishi Corp , reported the lightest use, with 391 grams per tonne.


 抗生物質を懸念する声にも科学的根拠はある。Forttらによるスペイン語の論文だが、英語のアブストラクトがあるので問題の要点は理解できる。
Residuos de tetraciclina y quinilona en peces silvestres en una zona costera donde se desarrolla la acuicultura del salmón en Chile
Fortt et al., Rev Chil Infectol 24: 14 (1997)
http://www.scielo.cl/pdf/rci/v24n1/art02.pdf

Residues of tetracycline and quinolones in wild fish living around a salmon aquaculture center in Chile

The presence of residues of tetracycline, quinolones and antiparasitic drugs was investigated in wild fish captured around salmon aquaculture pens in Cochamó, Region X, Chile. Residues of both antibiotics were found in the meat of two species of wild fish that are consumed by humans, róbalo (Scorpaena hystrio) and cabrilla (Elginops maclovinus). These findings suggest that the antibiotic usage in salmon aquaculture in Chile has environmental implications that may affect human and animal health. More studies are needed in Chile to determine the relevance of these findings for human and animal health and the environment to regulate this use of antibiotics.


 またハフポストの記事で紹介されていたが、最近のレビューもある。
Antimicrobial use in aquaculture re-examined: its relevance to antimicrobial resistance and to animal and human health
Cabello et al., Environmental Microbiology 15: 1917 (2013)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23711078

 養殖で使われる抗生物質の大半は環境中に拡散し、水中環境から陸上生物ひいては人間の健康まで脅かすというのは「沈黙の春」の筋書きそのまんまである。とくにチリでは多種類の抗生物質の使用が許されており、そして使用の実態は不明である。前出記事のCermaqの391g/tでもまだかなり多い方だ。
157-2.png

While Norway, the United Kingdom and Canada used approximately 0.0008 kg, 0.0117 kg, and 0.175 kg, respectively, of antimicrobials for each metric ton of salmon produced in 2007, Chile used at least 1.4 kg per metric ton


 抗生物質の大半は餌に混ぜて与えられ、注射されるのはごくわずか(おやおや、何かの記事ではまるで全部注射してるみたいな印象を受けたぞ)。これも会社や養魚場ごとにどのように処方しているかは異なるし、実態も不明ということだろう。

Antimicrobials used in aquaculture are administered to fish mostly in food and only rarely by injection or bath


 論文では、養魚場周辺のバクテリアは抗生物質に対する耐性を獲得していること、耐性に関わる遺伝子は抗生物質のない環境下でも微生物の適応度を上げる可能性があることが論じられている。つまり、抗生物質による選択圧がなくなれば耐性遺伝子も急速に失われるという王道セオリーに反し、選択圧がなくても耐性が保持されうる例があることが示されている。微生物に起きた変化は、養魚場周辺の野生の魚貝にも影響する。さらに、抗菌剤耐性に関わる遺伝的要素が養魚場周辺の水圏微生物から陸圏微生物や人間への病原まで伝播する可能性があることが論じられている。要するに、養殖サケを全く食べなくても、サケ養殖で野方図に使われる抗生物質が生み出した耐性病原菌が人類を含む生物の健康を脅かす可能性があるということである。食品としての養殖サケにも、残留抗生物質の危険性がある。抗生物質が腸内細菌に与える影響が論じられ、養殖魚を取り扱う労働者はとくに抗生物質と耐性菌に曝露されやすいと指摘している。

These novel antimicrobial resistance elements may ultimately reach human pathogens and complicate therapy of infections caused by them


These considerations suggest that excessive aquacultural use of antimicrobials may potentially have major effects on animal and human health as well as on the environment.


 チリのサケ養殖に多くの深刻な問題があることは多数の科学論文の蓄積が示とおり明白だが、なぜかデマ扱いされる。これと似たことは捕鯨問題でも見てきた。これまた科学論文の蓄積があり、多数の科学者が調査捕鯨やイルカ猟の問題点を指摘し続けているにも関わらず、グリーンピースやシーシェパードなどの活動家への非難の大合唱の中でこうした科学は無視されてきた。

 チリで急速に成長したサケ養殖産業のもたらす経済的利益を考えるなら、養殖の環境影響を懸念する声を押さえ込もうとする力が働くのは当然予想できる。毎度おなじみのサウンドサイエンスイデオロギーである。ブッシュ政権下の米国でも、養豚場周辺で抗生物質耐性を持ったバクテリアが増殖していることを報告しようとした科学者に、研究を発表しないよう圧力がかかったことがUndermining Scienceに紹介されている。

 Baileyが論じるように、利害関係者間での民主主義的意思決定、持続的養殖のための国際基準の設定、小売業者や市場の意思決定などが重要になってくるだろう。消費者の意思表示もまた重要である。持続可能な手法で生産された安全なサケを食べたいという意思表示と消費行動はごく当たり前のことだし、サケ以外にも言える(例えばコンビニや牛丼屋でウナギを食べない、など)。因にチリのサケ養殖は独裁体制下で始まったもので、チリの民主化とともにその問題点を指摘する声があげられるようになってきたようだ。

Looking for sustainable solutions in salmon aquaculture
Bailey, Etikk i praksis. Nordic Journal of Applied Ethics 8: 22 (2014)
http://www.ntnu.no/ojs/index.php/etikk_i_praksis/article/view/1801/1830 【“チリのサケ(おかわり)”の続きを読む】

サケを追う:reprise

 以前に米国ノルウェーのサケ養殖の問題点について言及したのですが、今度はチリ産養殖サケがネットで話題になりました。
参考記事
http://lastline.hatenablog.com/entry/2016/05/30/174858

 まず食品としての安全性を論じたものから見ていきましょう。特に話題になったのは2004年にサイエンスに発表されたHitesらによるもので、養殖サケに蓄積した汚染物質の危険性を論じています。これについては後に誌上で議論されており、養殖サケを多く食べているノルウェーで特に健康問題が起きていないことや、魚食を減らすデメリットと魚を食べることのベネフィットなどが論じられています(Science 305: 475 (2004))。
Global assessment of organic contaminants in farmed salmon
Hites et al., Science 303: 226 (2004)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14716013

魚食の健康への影響をレビューしたのはMozaffarian & Rimm (2006)で、当時の証拠からは、養殖サケは野生のものよりややリスクが高いながらも全体としてリスクを上回るベネフィットがあるとしています。
Fish Intake, Contaminants, and Human Health: evaluating the risks and the benefits.
Mozaffarian & Rimm, JAMA 296: 1885 (2006)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17047219

比較的最近でも、養殖サケの汚染と健康問題を論じたものはあります。
The role of persistent organic pollutants in the worldwide epidemic of type 2 diabetes mellitus and the possible connection to Farmed Atlantic Salmon (Salmo salar)
Crinnion, Altern Med Rev 16: 301 (2011)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22214250

 PCBなどによる汚染の影響は調査されていますが、残留抗生物質についてはまだよくわかっていないようです。食品としての安全性を論じた場合、リスクとベネフィットのバランスの話になるのは当然で、養殖サケ全般が食用に適していないことを示す科学的理由なんてものを見つけるのは非常に困難でしょう。

 ところが食品としての安全性ではなく、野生のサケなど自然環境への影響に注目した場合、養殖は深刻な問題を引き起こしていることがわかります。問題は大まかに以下の4つに分類できます(Bailey 2014による)。
1)養殖サケにつく寄生虫や病気の問題
2)POPsや抗生物質、餌や糞を通して水中に放出される栄養分などの問題
3)病気や寄生虫の伝播や、交配による遺伝子汚染など、養魚場近傍の野生のサケへの影響
4)養殖魚や餌の移動にからむより広範囲な生態的影響(チリではアトランティックサーモンは外来種)

養殖サケが野生のサケの生存を脅かすことや、行政と司法の問題など。
Hatcheries and Endangered Salmon
Myers et al., Science 303:1980 (2004)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15044790

養殖サケを自然界に放たないことが緊急の課題である。
Genetic and ecological effects of salmon farming on wild salmon: modelling from experimental results
Hindar et al., ICES Journal of Marine Science 63: 1234 (2006)
http://icesjms.oxfordjournals.org/content/63/7/1234.abstract

養殖サケを逃がさないことの重要性はここでも論じられています。
Incidence and impacts of escaped farmed Atlantic salmon Salmo salar in nature
Thorstad et al., (2008)
http://www.fao.org/docrep/016/aj272e/aj272e00.htm

サケ養殖を持続可能なものにするために何が必要かが論じられるということは、現状は持続可能なものではないということです。
Looking for sustainable solutions in salmon aquaculture
Bailey, Etikk i praksis. Nordic Journal of Applied Ethics 8: 22 (2014)
http://www.ntnu.no/ojs/index.php/etikk_i_praksis/article/view/1801/1830

・チリのサケ養殖は環境にどう影響しているのか?

抗生物質の環境への漏出など、サケ養殖が海洋保護と相容れないことを指摘。
Marine conservation in Chile: Historical perspective, lessons, and challenges
Fernandez & Castilla, Conservation Biology 19: 1752 (2005)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1523-1739.2005.00277.x/full

底性生物多様性への影響、赤潮の発生、固有生物への影響などを指摘し、影響調査の必要性を説く。
A review of the impacts of salmonid farming on marine coastal ecosystems in the southeast Pacific
Buschmann et al., ICES Journal of Marine Science 63: 1338e1345 (2006)
http://icesjms.oxfordjournals.org/content/63/7/1338.full

養殖産業に対して科学に基づく有効な規制がないことを指摘。不透明性のため、薬剤の使用についても実態は不明である。
Salmon aquaculture and coastal ecosystem health in Chile: Analysis of regulations, environmental impacts and bioremediation systems
Buschmann et al., Ocean & Coastal Management 52: 243 (2009)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0964569109000350

The agency’s immediate goal should be to fund research required to develop a transparent, ecosystem-based regulatory framework that promotes IMTA. Monitoring programs and licensing procedures must consider the impacts of individual sites and the cumulative impacts from multiple sites across a wide range of spatial scales. Before such changes are realized, environmental threats and human health risks will remain unacceptably high and salmon farming in Chile will not meet any reasonable definition of sustainability.



逃げ出した養殖サケ類の増加と、サケの捕食などによる在来魚の減少を報告。
Aquaculture, non-native salmonid invasions and associated declines of native fishes in Northern Patagonian lakes
Arismendi et al., Freshwater Biology 54: 1135 (2009)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2427.2008.02157.x/abstract

多数の養殖魚が毎年自然界に逃げ出しており、生態系への影響が懸念されている。養殖業者と漁師の対立など社会問題も。
Escaped farmed salmon and trout in Chile: Incidence, impacts, and the need for an ecosystem view
Sepúlveda et al., Aquacult Environ Interact 4: 273 (2013)
http://www.int-res.com/articles/aei2013/4/q004p273.pdf

 養殖サケの食品としての安全性についてはなかなか結論できない一方で、養殖の環境への悪影響は厳然と存在します。食い物としての安全性だけが大騒ぎされることで、より明白で緊急に対応するべき重要な問題が見えにくくなってしまいます。こうしたことは遺伝子組み換え作物についても同じかもしれません。メディア上の議論で焦点になるのは食物としての安全性ばかりで、環境や社会的影響が議論されることはあまりありません。しかし遺伝子組み換え作物問題の本質は、サケ養殖と同様に、それが社会の中でどのように運用されるか(たとえば農民漁民の生活、食糧生産体制、人間以外の生物への影響など)にあるのではないかと思います。

===========================
おまけ

ニセ科学批判=無能の法則
ホメオパシーとかEM菌とか江戸しぐさとか水素水ごときにいちいち大騒ぎする連中はこういう科学と社会の関わる問題で必ずまともな答えを出さないという法則。捕鯨沈黙の春とマラリアチョウの放射線被曝研究などでみられる。というかsalmoを名乗って外来種云々しておきながらサケ養殖の話題で野生種保護の話をしないってどういうことだ。

https://twitter.com/hidetoga/status/737113190077587456
https://twitter.com/usg_ringo/status/737074969125912576
https://twitter.com/yu_kubo/status/737042680123777025
https://twitter.com/doramao/status/737061462057701376
https://twitter.com/invasivespeacie/status/737222703111757825
https://twitter.com/sakamotoh/status/736826059199414272
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