3500-13-12-2-1

ツーリングの記録等に使おうと思っていたが。。。タイトルは最初の記事の3500km, 13日, 12ヶ国, 自動二輪, 空冷単気筒の意。

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チリのサケ(おかわり)

(前の記事の補足みたいなものを書いていたらもうハフポストに続報が出て、しかも参考文献がかぶってた。。。)

チリ産サーモンは、抗生物質のスープの海で泳いでいる!?~過剰使用が世界規模で健康を脅かす可能性
http://www.huffingtonpost.jp/konomi-kikuchi/chile-salmon-antibiotics_b_10314356.html

 サケ養殖一般に、病気や寄生虫の拡散、野生種との交配による遺伝子汚染などの問題があることは広く知られている。
Hatcheries and endangered salmon
Myers et al., Science 303:1980 (2004)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15044790

Undermining Science
Shulman, University of California Press (2006)

沈黙の海
ロヴィーン 新評論 (2009)

 チリで養殖されているサケはチリにおいては外来種であり、ケージから逃げ出した個体の野生化が引き起こす問題などがある。外来サケの増加に伴う在来魚種の減少、寄生虫や病気の拡散、外来サケの野性化と定着などの問題が論じられており、また逃げ出したサケの所有権を巡って社会的な問題が起きていることも指摘されている。
Escaped farmed salmon and trout in Chile: Incidence, impacts, and the need for an ecosystem view
Sepúlveda et al., Aquacult Environ Interact 4: 273 (2013)
http://www.int-res.com/articles/aei2013/4/q004p273.pdf

 チヌークサーモンは定着に成功しており(Ciancio et al, 2005; Di Prinzio et al, 2015)、外来サケの捕食による在来魚の減少も確認されている(Arismendi et al, 2009)。
Natural colonization and establishment of a chinook salmon Oncorhynchus tshawytscha, population in the Santa Cruz River, an Atlantic basin of Patagonia
Ciancio et al., Environmental Biology of Fishes 74: 219 (2005)
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10641-005-0208-1

Disentangling the contributions of ocean ranching and net-pen aquaculture in the successful establishment of Chinook salmon in a Patagonian basin
Di Prinzio et al., Environmental Biology of Fishes 98: 1987 (2015)
http://link.springer.com/article/10.1007/s10641-015-0418-0

Aquaculture, non-native salmonid invasions and associated declines of native fishes in Northern Patagonian lakes
Arismendi et al., Freshwater Biology 54: 1135 (2009)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2427.2008.02157.x/abstract

 Buschmannらはチリのサケ養殖の概説の中で、産業の急速拡大により規制が時代遅れのものとなっていること、養殖場の環境影響評価法の不備、薬剤使用の実態の不透明性、研究の不足などの問題点を挙げている。また抗生物質の使用量についてもノルウェーと比較して桁違いに多いことを指摘し、生態系などへの影響を懸念している。
Salmon aquaculture and coastal ecosystem health in Chile: Analysis of regulations, environmental impacts and bioremediation systems
Buschmann et al., Ocean & Coastal Management 52: 243 (2009)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0964569109000350
157-1.png
 チリのサケ養殖会社は複数あり、報道によると薬剤の使用量も会社ごとに違うようだが、日本のスーパーマーケットで目にするチリ産サーモンに養殖会社まで明記されている物があるのだろうか(少なくとも私の近所では単に「チリ産 養殖」としか表記されていない)。
Chile's embattled salmon industry up antibiotic use in 2015: Government
http://www.channelnewsasia.com/news/world/chile-s-embattled-salmon/2863512.html

Among large seafood companies, Australis Seafoods reported the most intense use of antibiotics, using 1,062 grams per tonne of fish. Cermaq, owned by Japan's Mitsubishi Corp , reported the lightest use, with 391 grams per tonne.


 抗生物質を懸念する声にも科学的根拠はある。Forttらによるスペイン語の論文だが、英語のアブストラクトがあるので問題の要点は理解できる。
Residuos de tetraciclina y quinilona en peces silvestres en una zona costera donde se desarrolla la acuicultura del salmón en Chile
Fortt et al., Rev Chil Infectol 24: 14 (1997)
http://www.scielo.cl/pdf/rci/v24n1/art02.pdf

Residues of tetracycline and quinolones in wild fish living around a salmon aquaculture center in Chile

The presence of residues of tetracycline, quinolones and antiparasitic drugs was investigated in wild fish captured around salmon aquaculture pens in Cochamó, Region X, Chile. Residues of both antibiotics were found in the meat of two species of wild fish that are consumed by humans, róbalo (Scorpaena hystrio) and cabrilla (Elginops maclovinus). These findings suggest that the antibiotic usage in salmon aquaculture in Chile has environmental implications that may affect human and animal health. More studies are needed in Chile to determine the relevance of these findings for human and animal health and the environment to regulate this use of antibiotics.


 またハフポストの記事で紹介されていたが、最近のレビューもある。
Antimicrobial use in aquaculture re-examined: its relevance to antimicrobial resistance and to animal and human health
Cabello et al., Environmental Microbiology 15: 1917 (2013)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23711078

 養殖で使われる抗生物質の大半は環境中に拡散し、水中環境から陸上生物ひいては人間の健康まで脅かすというのは「沈黙の春」の筋書きそのまんまである。とくにチリでは多種類の抗生物質の使用が許されており、そして使用の実態は不明である。前出記事のCermaqの391g/tでもまだかなり多い方だ。
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While Norway, the United Kingdom and Canada used approximately 0.0008 kg, 0.0117 kg, and 0.175 kg, respectively, of antimicrobials for each metric ton of salmon produced in 2007, Chile used at least 1.4 kg per metric ton


 抗生物質の大半は餌に混ぜて与えられ、注射されるのはごくわずか(おやおや、何かの記事ではまるで全部注射してるみたいな印象を受けたぞ)。これも会社や養魚場ごとにどのように処方しているかは異なるし、実態も不明ということだろう。

Antimicrobials used in aquaculture are administered to fish mostly in food and only rarely by injection or bath


 論文では、養魚場周辺のバクテリアは抗生物質に対する耐性を獲得していること、耐性に関わる遺伝子は抗生物質のない環境下でも微生物の適応度を上げる可能性があることが論じられている。つまり、抗生物質による選択圧がなくなれば耐性遺伝子も急速に失われるという王道セオリーに反し、選択圧がなくても耐性が保持されうる例があることが示されている。微生物に起きた変化は、養魚場周辺の野生の魚貝にも影響する。さらに、抗菌剤耐性に関わる遺伝的要素が養魚場周辺の水圏微生物から陸圏微生物や人間への病原まで伝播する可能性があることが論じられている。要するに、養殖サケを全く食べなくても、サケ養殖で野方図に使われる抗生物質が生み出した耐性病原菌が人類を含む生物の健康を脅かす可能性があるということである。食品としての養殖サケにも、残留抗生物質の危険性がある。抗生物質が腸内細菌に与える影響が論じられ、養殖魚を取り扱う労働者はとくに抗生物質と耐性菌に曝露されやすいと指摘している。

These novel antimicrobial resistance elements may ultimately reach human pathogens and complicate therapy of infections caused by them


These considerations suggest that excessive aquacultural use of antimicrobials may potentially have major effects on animal and human health as well as on the environment.


 チリのサケ養殖に多くの深刻な問題があることは多数の科学論文の蓄積が示とおり明白だが、なぜかデマ扱いされる。これと似たことは捕鯨問題でも見てきた。これまた科学論文の蓄積があり、多数の科学者が調査捕鯨やイルカ猟の問題点を指摘し続けているにも関わらず、グリーンピースやシーシェパードなどの活動家への非難の大合唱の中でこうした科学は無視されてきた。

 チリで急速に成長したサケ養殖産業のもたらす経済的利益を考えるなら、養殖の環境影響を懸念する声を押さえ込もうとする力が働くのは当然予想できる。毎度おなじみのサウンドサイエンスイデオロギーである。ブッシュ政権下の米国でも、養豚場周辺で抗生物質耐性を持ったバクテリアが増殖していることを報告しようとした科学者に、研究を発表しないよう圧力がかかったことがUndermining Scienceに紹介されている。

 Baileyが論じるように、利害関係者間での民主主義的意思決定、持続的養殖のための国際基準の設定、小売業者や市場の意思決定などが重要になってくるだろう。消費者の意思表示もまた重要である。持続可能な手法で生産された安全なサケを食べたいという意思表示と消費行動はごく当たり前のことだし、サケ以外にも言える(例えばコンビニや牛丼屋でウナギを食べない、など)。因にチリのサケ養殖は独裁体制下で始まったもので、チリの民主化とともにその問題点を指摘する声があげられるようになってきたようだ。

Looking for sustainable solutions in salmon aquaculture
Bailey, Etikk i praksis. Nordic Journal of Applied Ethics 8: 22 (2014)
http://www.ntnu.no/ojs/index.php/etikk_i_praksis/article/view/1801/1830 【“チリのサケ(おかわり)”の続きを読む】

サケを追う:reprise

 以前に米国ノルウェーのサケ養殖の問題点について言及したのですが、今度はチリ産養殖サケがネットで話題になりました。
参考記事
http://lastline.hatenablog.com/entry/2016/05/30/174858

 まず食品としての安全性を論じたものから見ていきましょう。特に話題になったのは2004年にサイエンスに発表されたHitesらによるもので、養殖サケに蓄積した汚染物質の危険性を論じています。これについては後に誌上で議論されており、養殖サケを多く食べているノルウェーで特に健康問題が起きていないことや、魚食を減らすデメリットと魚を食べることのベネフィットなどが論じられています(Science 305: 475 (2004))。
Global assessment of organic contaminants in farmed salmon
Hites et al., Science 303: 226 (2004)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14716013

魚食の健康への影響をレビューしたのはMozaffarian & Rimm (2006)で、当時の証拠からは、養殖サケは野生のものよりややリスクが高いながらも全体としてリスクを上回るベネフィットがあるとしています。
Fish Intake, Contaminants, and Human Health: evaluating the risks and the benefits.
Mozaffarian & Rimm, JAMA 296: 1885 (2006)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17047219

比較的最近でも、養殖サケの汚染と健康問題を論じたものはあります。
The role of persistent organic pollutants in the worldwide epidemic of type 2 diabetes mellitus and the possible connection to Farmed Atlantic Salmon (Salmo salar)
Crinnion, Altern Med Rev 16: 301 (2011)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22214250

 PCBなどによる汚染の影響は調査されていますが、残留抗生物質についてはまだよくわかっていないようです。食品としての安全性を論じた場合、リスクとベネフィットのバランスの話になるのは当然で、養殖サケ全般が食用に適していないことを示す科学的理由なんてものを見つけるのは非常に困難でしょう。

 ところが食品としての安全性ではなく、野生のサケなど自然環境への影響に注目した場合、養殖は深刻な問題を引き起こしていることがわかります。問題は大まかに以下の4つに分類できます(Bailey 2014による)。
1)養殖サケにつく寄生虫や病気の問題
2)POPsや抗生物質、餌や糞を通して水中に放出される栄養分などの問題
3)病気や寄生虫の伝播や、交配による遺伝子汚染など、養魚場近傍の野生のサケへの影響
4)養殖魚や餌の移動にからむより広範囲な生態的影響(チリではアトランティックサーモンは外来種)

養殖サケが野生のサケの生存を脅かすことや、行政と司法の問題など。
Hatcheries and Endangered Salmon
Myers et al., Science 303:1980 (2004)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15044790

養殖サケを自然界に放たないことが緊急の課題である。
Genetic and ecological effects of salmon farming on wild salmon: modelling from experimental results
Hindar et al., ICES Journal of Marine Science 63: 1234 (2006)
http://icesjms.oxfordjournals.org/content/63/7/1234.abstract

養殖サケを逃がさないことの重要性はここでも論じられています。
Incidence and impacts of escaped farmed Atlantic salmon Salmo salar in nature
Thorstad et al., (2008)
http://www.fao.org/docrep/016/aj272e/aj272e00.htm

サケ養殖を持続可能なものにするために何が必要かが論じられるということは、現状は持続可能なものではないということです。
Looking for sustainable solutions in salmon aquaculture
Bailey, Etikk i praksis. Nordic Journal of Applied Ethics 8: 22 (2014)
http://www.ntnu.no/ojs/index.php/etikk_i_praksis/article/view/1801/1830

・チリのサケ養殖は環境にどう影響しているのか?

抗生物質の環境への漏出など、サケ養殖が海洋保護と相容れないことを指摘。
Marine conservation in Chile: Historical perspective, lessons, and challenges
Fernandez & Castilla, Conservation Biology 19: 1752 (2005)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1523-1739.2005.00277.x/full

底性生物多様性への影響、赤潮の発生、固有生物への影響などを指摘し、影響調査の必要性を説く。
A review of the impacts of salmonid farming on marine coastal ecosystems in the southeast Pacific
Buschmann et al., ICES Journal of Marine Science 63: 1338e1345 (2006)
http://icesjms.oxfordjournals.org/content/63/7/1338.full

養殖産業に対して科学に基づく有効な規制がないことを指摘。不透明性のため、薬剤の使用についても実態は不明である。
Salmon aquaculture and coastal ecosystem health in Chile: Analysis of regulations, environmental impacts and bioremediation systems
Buschmann et al., Ocean & Coastal Management 52: 243 (2009)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0964569109000350

The agency’s immediate goal should be to fund research required to develop a transparent, ecosystem-based regulatory framework that promotes IMTA. Monitoring programs and licensing procedures must consider the impacts of individual sites and the cumulative impacts from multiple sites across a wide range of spatial scales. Before such changes are realized, environmental threats and human health risks will remain unacceptably high and salmon farming in Chile will not meet any reasonable definition of sustainability.



逃げ出した養殖サケ類の増加と、サケの捕食などによる在来魚の減少を報告。
Aquaculture, non-native salmonid invasions and associated declines of native fishes in Northern Patagonian lakes
Arismendi et al., Freshwater Biology 54: 1135 (2009)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2427.2008.02157.x/abstract

多数の養殖魚が毎年自然界に逃げ出しており、生態系への影響が懸念されている。養殖業者と漁師の対立など社会問題も。
Escaped farmed salmon and trout in Chile: Incidence, impacts, and the need for an ecosystem view
Sepúlveda et al., Aquacult Environ Interact 4: 273 (2013)
http://www.int-res.com/articles/aei2013/4/q004p273.pdf

 養殖サケの食品としての安全性についてはなかなか結論できない一方で、養殖の環境への悪影響は厳然と存在します。食い物としての安全性だけが大騒ぎされることで、より明白で緊急に対応するべき重要な問題が見えにくくなってしまいます。こうしたことは遺伝子組み換え作物についても同じかもしれません。メディア上の議論で焦点になるのは食物としての安全性ばかりで、環境や社会的影響が議論されることはあまりありません。しかし遺伝子組み換え作物問題の本質は、サケ養殖と同様に、それが社会の中でどのように運用されるか(たとえば農民漁民の生活、食糧生産体制、人間以外の生物への影響など)にあるのではないかと思います。

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おまけ

ニセ科学批判=無能の法則
ホメオパシーとかEM菌とか江戸しぐさとか水素水ごときにいちいち大騒ぎする連中はこういう科学と社会の関わる問題で必ずまともな答えを出さないという法則。捕鯨沈黙の春とマラリアチョウの放射線被曝研究などでみられる。というかsalmoを名乗って外来種云々しておきながらサケ養殖の話題で野生種保護の話をしないってどういうことだ。

https://twitter.com/hidetoga/status/737113190077587456
https://twitter.com/usg_ringo/status/737074969125912576
https://twitter.com/yu_kubo/status/737042680123777025
https://twitter.com/doramao/status/737061462057701376
https://twitter.com/invasivespeacie/status/737222703111757825
https://twitter.com/sakamotoh/status/736826059199414272

チョウを追う:reprise

As expected, we received a variety of opinions, comments, and advice on this matter from other students in our laboratory and from other professors in our university even before starting this research. Many of them discouraged us. Some worried about us because radioactive materials are hazardous to health. Some worried that our research might annoy people living in the polluted areas, the nuclear power industry, and Japanese government, implying that the research would politically dangerous. However, over and above theses considerations, we were terrified by the pollution itself and by the continuing release of radioactive materials. We are also terrified by the possibility of additional earthquakes and further breaches of the NPP. However, we convinced ourselves that we as scientists should contribute to something that provides biological truth on this issue.

Otaki, Understanding Fukushima through Butterfly Biology: Academic Freedom for Scientists and the Public


 この資料集を作っているときに気がついたのですが、琉球大学の大瀧グループはヤマトシジミへの被曝影響について結構論文を出しています。
http://w3.u-ryukyu.ac.jp/bcphunit/fukushimaproj.html

 ネットで言われるほど大瀧グループの研究は変なのか?論文として出た以上、その論文を引用する形で反論の論文があるはずなのですが。

ヤマトシジミの異常は原発事故の影響?
http://togetter.com/li/353759

『ヤマトシジミの異常は原発事故の影響?』後日談
http://togetter.com/li/354694

ヤマトシジミの奇形は原発の影響によるものなのか
http://horikawad.hatenadiary.com/entry/20120813/1344814974

「原発事故でチョウに遺伝的異常」 准教授論文に異論相次ぐ
http://www.j-cast.com/2012/08/17143227.html?p=all

https://twitter.com/turingpattern/status/236071811425644544
なぜか元記事(「原発事故でチョウに異常」という論文は、壮大な「釣り」ではないの か?)が見当たらない。

https://twitter.com/DescendIntoCha2/status/314414421806026753 (パクツイ)
http://b.hatena.ne.jp/entry/twitter.com/DescendIntoCha2/status/314414421806026753 (オリジナル)

 現時点でざっとヤマトシジミの論文を引用している論文を眺めて思ったこと。
 大瀧グループはコンスタントに続報を出しており、低線量被曝の野外調査の結果を実験的に再現したという新規性と、(今までよく研究されてきた短期的高線量被曝でなく)長期にわたる低線量被曝の影響についての研究を刺激した点で、科学の営みとしては至極真っ当に思えます。とりわけ、雌雄モザイクのチョウはチェルノブイリ近傍でも報告されており(Dantchenko et al, 1995)、大瀧グループの発見(Hiyama et al, 2013)ともある程度の共通性はあるわけです。結局、何か反証となるような査読付き論文は見つけられませんでした。今後、別のグループがチョウの被曝実験で同様の結果を得られるかどうか、報告が待たれるところです。
 要するに、鷲谷いづみ先生のコメントは現時点でも全く妥当なものです。

 ヤマトシジミにしろオオタカにしろ事故による被曝の生物への影響を論じた論文が出てネットで騒ぎになるわけですが、そういうのを見て私が何を思いだしたかというとオレスケスのエッセイ (Science 306: 1686 (2004))です。オレスケスはこの中で、人為的気候変動への懐疑は巷にあふれていてもピアレビューを経た科学論文にはそのようなものがないことを指摘しています。自分の経験を思い起こしても、何の科学的正当性もない日本の捕鯨科学の装いで擁護されたり、ジャーナリストや大学教員といった肩書きの人間がレイチェルカーソンを中傷したりしているのを見てきました。核災害に臨んでこのクソみてぇな連中が、生物にあらわれた影響が放射線被曝によるものであることの厳密な証明がなされない限り被曝の影響はないものとするというサウンドサイエンスイデオロギーと共にあらわれるのは、公害病の歴史を顧みても当然予想できることです。

If the history of science teaches anything, it is humility, and no one can be faulted for failing to act on what is not known. But our grandchildren will surely blame us if they find that we understood the reality of anthropogenic climate change and failed to do anything about it.
Oreskes, Science 306: 1686 (2004)


・大瀧グループの論文を引用しているものの一部
Morphological outcomes of gynandromorphism in Lycaeides butterflies (Lepidoptera: Lycaenidae)
Jahner et al., J Insect Sci 15: (2015)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25843591
最終段落に気になることが書いてある。ひょっとしてチョウは放射線の影響をおそろしく受け易いのかもしれない、とは考えられるわけです。

Finally, increased occurrence of gynandromorphism in butterflies has been linked with exposure to low-dose radiation (Dantchenko et al. 1995). For example, a small number of gynandromorphic pale grass blue butterflies (Zizeeria maha (Kollar)) have been found in areas within the Fukushima nuclear accident fallout area in Japan (Hiyama et al. 2013). Over 7,000 Lycaeides butterflies have been captured or reared from a number of sites across North America between 2003 and 2014; however, all six of the gynandromorphs in this study were captured or reared in the 16 mo following the Fukushima nuclear accident and none have been captured since (M.L.F., pers. obs.). Although we have no reason to link low-dose radiation exposure with the spatial and temporal concentration of gynandromorphs described in this study, it is intriguing to note that radiation from Fukushima reached the western United States 4mo prior to the first gynandromorph capture (Thakur et al. 2012).



Chronic low-dose γ-irradiation of Drosophila melanogaster larvae induces gene expression changes and enhances locomotive behavior
Kim et al., J Radiat Res 56: 475 (2015)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25792464

Assessment of electron beam irradiation induced proteomic changes and its effect on the development of silkworm, Bombyx mori (Bombycidae: Lepidoptera)
Kannan et al., The Journal of Basic & Applied Zoology 73: 32 (2016)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2090989616000059

Gamma radiation induces growth retardation, impaired egg production, and oxidative stress in the marine copepod Paracyclopina nana
Won & Lee, Aquatic Toxicology 150: 17 (2014)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166445X14000605

Gamma rays induce DNA damage and oxidative stress associated with impaired growth and reproduction in the copepod Tigriopus japonicus
Han et al., Aquatic Toxicology 152: 264 (2014)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166445X14001349

DNA alterations and effects on growth and reproduction in Daphnia magna during chronic exposure to gamma radiation over three successive generations
Parisot et al., Aquatic Toxicology 163: 27 (2015)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166445X15000764

Chromosomal instability―mechanisms and consequences
Venkatesan et al., Mutation Research/Genetic Toxicology and Environmental Mutagenesis 793: 176 (2015)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1383571815002247

・チェルノブイリでの昆虫への影響を研究したもの
Nuclear pollution and gynandromorphic butterflies in southern Russia
Dantchenko et al., Holarctic Lepidoptera 2: 77 (1995)

Effects of parental radiation exposure on developmental instability in grasshoppers
Beasley et al., J Evol Biol 25: 1149 (2012)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22507690

GRASSHOPPERS’ ADAPTATION TO ELEVATED RADIOACTIVITY IN THE CHERNOBYL EXCLUSION ZONE
Hindborg Mortensen, Master Thesis, Roskilde University (2013)

クジラ害獣論のプロトタイプ?

こんな本を読みました。

ジビエを食べれば「害獣」は減るのか 和田一雄 八坂書房 2013

 図書館で見かけたとき、著者の名前に思い当たるものが。1970年代に日本の捕鯨政策の抱える基本的な問題をすでに指摘(鯨類資源管理理論に関するコメント 哺乳類科学 第28・29合併号 1974年)していた動物学者で、その論文では所属が京大霊長研とあったので霊長類学者だと思っていましたが、本書を見ると海獣を含む様々な哺乳類を研究してきた人でした。この本の中では色々なことが論じられているのですが、著者の和田さんが海獣研究の過程で経験した水産庁の態度があまりにもすごいのでその辺を中心にメモ。

国有林や公有林では一応形式的にも国民の意見を反映させる場を設定している。海では所有権もないのに、したがって資本投下も必要とせずに莫大な漁業資源を漁協傘下の漁家が漁獲し、利益を得る。海の資源に関して国民の意見を反映させる機会はほとんど用意されていない。なぜこのような資源の利用形態が出来上がったのだろうかという素朴な疑問が頭から離れずに居座ったままである。 (p3)



 ロヴィーンの「沈黙の海」を読むと、漁業は洋の東西を問わず似たような問題を抱えているようです。養殖でない限り「魚を育てる」ことに注意を払う必要が長らくなかったのが一つの原因ではないかと思います。漁獲されるマグロがどんどん小さくなっていくという話を聞きますが、日本に限らず、過剰漁獲により大型魚種が次々と姿を消し、獲物が小型化していく現象は広くみられています(Pauly et al., Science 279: 860 (1998))。

[1960年代のオットセイの捕獲調査について] 水産庁は、とれたオットセイの毛皮を日露毛皮株式会社に引き渡す契約を取り交わしているので、捕獲数が少ないとなぜ獲らないのかと問い合わせてきた。 (p178)


[オットセイの保護について] その過程で、唯一日本がオットセイの海上猟獲を主張した。一九六〇年代のことだ。私達オットセイ研究室員が水産庁に呼び出されて、海上猟獲に有利になるような資料を取れ、との命令を受けたことがあったが、そんな資料は取れるわけがないので、みんな黙して何も言わなかった。国際会議では水産庁の官僚が日本では海上猟獲の可能性を探る調査をすると述べた。それを私達がやるのだが、特にそんな観察資料が出るはずもない。こうした時期に水産庁のオットセイ害獣論が出た。当時まだ、日本では北洋でサケ・マスの流し網を操業していたので、その網を船に上げるときオットセイがまとわりついて見事にサケを食べていく。これでは食害が多すぎて漁業が成り立たないので、ある程度のオットセイを海上猟獲すべきだという主張だ。
 しかし、国際的に認められるはずもなく、害獣論は消えた。なぜ、水産庁はこんなにまでオットセイの海上猟獲にこだわるのか、には当時理由があった。公海漁業自由の原則と称して、世界中の海に進出していた大漁業会社の利益に奉仕するためだ。そのような〝自由〟も、一九九四年に日本でも発効した国連海洋法条約によって世界から認められなくなった。 (p189-190)


 鯨食害論の原型はここにあったのか!?というか官僚のやることって本当に前例を踏襲することなんだな。なんだか昆虫の本能行動を見ているかのような感覚すら覚えます。○○を知りたいから専門家に調査研究を依頼するというのは普通だと思いますが、結論が××であるような調査研究結果をもってこいというのは(論文の捏造ではよくある話だが)普通とは言えません。調査捕鯨についても下のような鯨類学者の証言があります。

私は80年代に水産庁に在籍し、調査捕鯨計画の立案にかかわった。その際、我々に与えられた条件は「経費をまかなえる頭数を捕鯨でき、しかも短期では終わらない調査内容の策定」だった。今では、法の網をくぐるような調査捕鯨の発足に手を貸したのは、うかつだったと悔やんでいる。
(殺さずとも解明可能 「科学目的」に疑問 - 帝京科学大教授・粕谷俊雄氏 毎日新聞 2005年10月3日)


 このオットセイ害獣論がメジャー化しなかった一方で、鯨食害論が現在もしぶとく残っているのはのはなぜなのか。クジラについては外国との対立を煽るような宣伝が大成功したからでしょうか。

海に棲む動物はすべて水産庁傘下にあるとして、他の官庁は関係を持ち得なかった。そして水産庁の目的はいかにして水産動物を資源として利用するかにあり、保護・保全はその目的に含まれていない。 (p196)


[ゼニガタアザラシの保護について] 私達がゼニガタの文化財指定を目指したことについては理由があった。一九七三年八月に私達は水産庁野生動物担当の海洋漁業部国際課(旧海洋一課)をたずね、そこの係官にゼニガタの保護の可能性について質問した。答はこうだった。「産業的にほとんど意味のないアザラシ猟にまで手は回らない。海に生息する動物は原則的に自由に捕獲すべきもので、規制をかけるべきではない。ゼニガタは現在漁業資源ではないけれども、将来資源になるかも知れず潜在的資源として扱っている。あなた方が心配されるなら、科学的資料をそろえて道庁の水産関係の部局に相談してみたらどうか。そこからわが課に案件が上がってきたら、対応しましょう。ゼニガタに一定の規制を設けるなどについては許可しないかもしれません」。
 これでは水産庁のゼニガタ保護政策に期待することは非現実的であると誰もが考えるだろう。 (p204)


 スジイルカ保護についての水産庁のコメントとよく似ています。“You do not need to worry about the situation because the fishermen will find some other items to fish if striped dolphins disappear because of over-fishing.” (Kasuya, Mar Mammal Sci 24: 749 (2008))。オットセイやアザラシの研究を通じて水産庁の態度を間近に見ていたからこそ、捕鯨についても本質を捉えることが出来たのでしょう。このアザラシとイルカの話は70年代のことですが、今でも水産庁は資源保護に積極的なようにはみえません。

トドの餌になる魚の管理は水産庁所管で、その背後には水産業会が控えている。トドや他の水産動物の関係まで含めた資源管理などという発想は業界、それを背景にした水産庁からは出てこない。これまでの魚の取りすぎは市場の論理に従った結果なのだ。資本とは最大の利潤を追求するのが使命だとするとこれまでのやり方の後追いしかできない。魚類は海の中の生物的諸関係の循環の中で動いているので、かれらの個体群動態も同様な関係の中にある。それゆえ、資源として魚を利用するときの管理は市場の論理ではなく、魚類の個体群動態に従って人間の利用できる範囲が決められる、自然の論理に従う必要がある。漁獲したあとの流通は市場にゆだねられる。このような流れを作るためには、官僚と資源管理研究とが対等の立場で、政策決定、政策実行に携わることが求められる。 (p6-7)


学問の相対的独立性を重視した体制を作り、せっかちに結果を求めるのではなく、長期的な視点に沿って野生動物と人間の生産活動の調整に資するような、創造的な調査・研究が出来る環境整備が必要である。
 このように袋小路に入り込んでいる資源管理を正しい方向に向かわせるにはどうしたらよいのかは明らかだ。世論に訴えることしかない。 (p8)


陸も海も自然を長期的視点で利用するには、官僚を野放しにすることのないように、政府とは独立した科学者の常設委員会を作り、そこが政府に勧告することが必要だ。そしてそれを政府が尊重して、実行に移す社会的な流れを作ることが緊急に求められている。 (p274)


 解決策として、広範な関係者の間での情報共有と発信、社会や行政への働きかけなどとともに、独立性の強い科学委員会の設置が提案されています。これは「クジラコンプレックス」で言われている国会直属の科学技術評価局の設置や、「解体新書『捕鯨論争』」のオンブズマン型研究とも符合します。捕鯨に関する科学の議論を顧みるならば、調査捕鯨はその科学的意義の無さから10年以上前に廃止されていてもおかしくはありませんでした。その調査捕鯨が30年近く存続しているのは、記者クラブ制度により国内報道は日本側の大本営発表を垂れ流すだけで、科学論文としてあらわれる調査捕鯨への重層的な批判を遮断してきたことが主な原因の一つだと思います。しかしもし仮に、メディアが垂れ流す以外の情報を「科学技術評価局」が提供していたなら、捕鯨議論の状況は変わっていたかもしれません。もちろん、原発の運用はどうなっているのかなどを考えると、「科学技術評価局」が大本営発表を追認するだけの組織になってしまうおそれもあるわけですが。実際、本書でも以下のようなくだりがあります。

[長野五輪に際して] すでに一九八七年には岩菅山に新しい滑降コースを新設することが計画の中に盛り込まれた。従って調査委員会はコース新設が適当だというお墨付きを提出することを委ねられた。地元の自治体、大学教授で固めた委員会では見え見えの手続きだ。そして一九八九年には調査委員会はコース設定が適当であるという内容の答申をした。私としてもこのような動きを黙って見ているわけにはゆかない。 (p80)


 ただやはり、科学的な要求に基づいて、腰の重い行政に変革を働きかける何かしらの機関は必要ではなかろうかと思います。

科学憲兵はこういうのを取り締まらない

アズキさんの語る『調査捕鯨の過去と未来』
http://togetter.com/li/370166

んで、ミンク鯨は現在資源量が60~70万頭に回復してると言われ、年間1000頭の捕獲では群れが減ったりしてない。どころか、南氷洋サンクチュアリなどでナガスやザトウなど他のクジラの餌場を浸食し始めており、それらの絶滅危惧種の繁殖を阻害している可能性が調査捕鯨の結果指摘されてる。
https://twitter.com/azukiglg/status/244702630771847168


日本が南極で無駄に捕殺しているクロミンククジラの推定個体数は30〜40万である。大本営発表ではかつての見積もりである76万という数字がいつまでも使われているようだが。
151-01.png
図の出典:
Marine Mammal Populations: Reconstructing Historical Abundances at the Global Scale
Christensen, Fisheries Centre Research Reports, vol. 14, no. 9 (2006).

そして「ミンクーナガス」「ミンクーザトウ」競合説というのは初めて見た。一部でよく知られているミンクーシロナガス競合説に科学的と呼べるほどの根拠はないし、調査捕鯨の結果に基づいて出された説というわけでもない。前にも書いたが。↓こういうのを読めばわかるわけですが。

Recovery plan for the blue whale
NOAA (1998)

Baleen whales: conservation issues and the status of the most endangered populations
Clapham et al., Mammal Review 29: 37- (1999)

Whaling: Will the Phoenix rise again?
Holt, Marine Pollution Bulletin 54: 1081– (2007)

Are Antarctic minke whales unusually abundant because of 20th century whaling?
Ruegg et al., Mol Ecol 19:281- (2010)

よく、調査捕鯨=クジラの頭数のカウントのためだけなら、捕殺の必要はなく背びれを数えればいいだけだ、という主張を見かけるけど、調査捕鯨っていうのは「商業捕鯨をしても資源総量が枯渇しないようにするには、どの程度までなら採って大丈夫か?」を調査する、というものでもある。
https://twitter.com/azukiglg/status/244702874158903296


捕獲可能数の算出はRMPの計算で十分であり、実行して立証する必要はない。そもそもこんなことは大本営発表にすら書かれていないネットの俗論である。

また、捕獲した鯨が何を食べているか?などの調査は、胃の内容物を調べなければならないため生体調査ができない。調査捕鯨が始まるまで回遊生態も、回遊地で何を餌にしていたかもはっきりしていなかった(例えばミンクは赤道付近と両極付近では別の餌を食べてた)
https://twitter.com/azukiglg/status/244703180821241856


殺して胃の中身を調べるだけしか手段がないわけではない。

A DNA-based method for identification of krill species and its application to analysing the diet of marine vertebrate predators
Jarman et al., Molecular Ecology 11: 2679-2690 (2002)

Group-specific polymerase chain reaction for DNA-based analysis of species diversity and identity in dietary samples
Jarman et al., Molecular Ecology 13: 1313–1322 (2004)

Quantitative fatty acid signature analysis: a new method of estimating predator diets.
Iverson et al., Ecological Monographs 74: 211-235 (2004)

最近のだとこういう手法もクジラに応用できるかもしれない。

Probability of detecting marine predator-prey and species interactions using novel hybrid acoustic transmitter-receiver tags.
Baker et al., PLoS ONE 9: e98117 (2014).

将来的に捕殺調査の優位性の説得力はますますなくなってくるだろうな。

「需要を減らして買わせなければよい」は、そもそも基本の部分から間違っている。「資源の維持、維持しながら獲得出来る量の模索」をIWC科学委員会の付託を受けて行っているのは日本の捕鯨船だけで、それ以外の組織団体はクジラの資源総量について科学的な判断を下せるだけの独自調査はしてない
https://twitter.com/azukiglg/status/244703899120963585


調査捕鯨を行なう主体はIWCの各加盟国であり、IWC科学委員会は何かの勧告はしても強制力は持っていない。日本の調査捕鯨は日本が勝手に科学調査名目で行なっているだけである(因に、禁漁期に科学調査の名目で捕鯨をはじめたのはソ連が最初)。各種クジラや、鯨類全体の生息数については前出のChristensen(2006)に詳しい。例えば下の図など。
151-02.png

そしてミンクの捕獲量の制限=ミンクの繁殖促進=ミンクの餌場の拡大とナガスの餌場の浸食=ナガスの減少という負のスパイラルが起きている RT ‪@ethanolcat‬: ‪@azukiglg‬ ゆえに、捕鯨反対の向きからは調査捕鯨は叩かれる。捕鯨反対なら、調査も不要であるからして。
https://twitter.com/azukiglg/status/244704544091693056


前のツイートでも気になっていたが、クロミンクーナガス競合説というのはまったく聞いたことがない。
追記:そもそも「ミンクの捕獲量の制限=ミンクの繁殖促進=ミンクの餌場の拡大とナガスの餌場の浸食=ナガスの減少」がウソ。比較的小型のミンククジラが捕鯨の対象になったのは、シロナガスクジラなど大型のクジラが姿を消したから。Paulyの言葉を借りるなら"whaling down"ということ。というかこいつの頭の中でのミンククジラの適正捕獲数はどうなっているんだろう?

捕鯨って日本の伝統ではなかったか。
https://twitter.com/ethanolcat/status/244704748861788160


南極海で伝統的に捕鯨していた国など私は知らん。

ミンク鯨は「海のディンゴ」であるわけで、これを放置することで結果的にナガスクジラは絶滅に追い込まれる。が、「クジラならなんでも捕鯨反対」という要点をシンプルにしか理解しない向きは、自らの判断がナガス絶滅の後押しをしていることを微塵も想像しない RT ‪@ethanolcat‬:
https://twitter.com/azukiglg/status/244704839970471936


ミンクを「海のゴキブリ」と呼んだ人間は知っているが、「海のディンゴ」というのは初めて見た。検索しても俗論の類しか見当たらない。ミンククジラが他のクジラの生存を脅かしている可能性というのは前に述べた通り絶無である。ぼくのかんがえたかいようせいたいけいにはうんざり。

ちうか、「鯨と人間は同じ小魚を取り合うライバルだ」という視点が理解されないのが(つ∀-) QT ‪@azukiglg‬: そして非常にマズイのが、ミンクとナガスの「外見」がそっくりであることに基づく誤解と混同で、これの結果「ミンクを採ること」と「ナガスを採るこ ‪@ethanolcat‬
https://twitter.com/_____zoe_____/status/244705159807111168


使い古された鯨食害論である。そもそもそれを支持する論文を見た事がない。

Must top predators be culled for the sake of fisheries?
Yodzis, Trends in Ecology and Evolution 16: 78- (2001)

Mapping world-wide distributions of marine mammal species using a relative environmental suitability (RES) model
Kaschner et al., MARINE ECOLOGY PROGRESS SERIES 316: 285- (2006)

Should whales be culled to increase fishery yield?
Gerber et al., Science 323: 880- (2009)

クジラは「24時間365日操業し続ける漁船」ですからなあ RT ‪@_____zoe_____‬: ちうか、「鯨と人間は同じ小魚を取り合うライバルだ」という視点が理解されないのが(つ∀-) QT ‪@azukiglg‬: そして非常にマズイのが、ミンクとナガスの「外見」がそっくりであるこ
https://twitter.com/azukiglg/status/244705320893566976


ヒゲクジラ類は摂餌しない時期があることは鯨肉販売サイトにも書いてある。
http://www.e-kuzira.com/newpage3.html
ホエールウォッチングの頁にも書いてある。
http://www.whale-watching.jp/watching/okinawa.php
ザトウを例にすると、摂餌するのは夏期と書いてある。
http://www.eoearth.org/view/article/163449/

あと、マッコウクジラは睡眠をとることが観察されている。
Stereotypical resting behavior of the sperm whale
Miller et al., Curr Biol 18: R21- (2008)

何が「24時間365日操業し続ける漁船」だ?

ツチ、ゴンドウ、イシイルカはIWC管理対象外だけど、これだってIWCの勧告とは別に国内農水省の管理下で年間の捕獲可能頭数が厳密に制限されてる。されてるけど、あの枠はもう少し広げてもいいんじゃね?という気はする。
https://twitter.com/azukiglg/status/244707290421293056


IWCが管理する鯨種というのは実は明確には定義されていない(解体新書「捕鯨論争」の5ページから詳しく解説されている)ので、「IWC管理対象外」というのは日本政府の主張に過ぎない。

専門家は捕獲枠をもう少し拡げても良いと考えているどころか、個体数の減少を指摘している。
https://www.marinemammalscience.org/letters/letter-to-japanese-government-regarding-dolphin-and-small-whale-hunts/

実際、伊豆のイルカ猟は資源壊滅を招いた。
Japanese Whaling and Other Cetacean Fisheries
Kasuya, Env Sci Pollut Res 14: 39- (2007)

沿岸小型鯨類は当然ながら沿岸部に多くいる根付きだったりする(ツチは回遊)ので、近海沿岸漁業のライバルである。休漁して漁場を休ませても、イルカを間引かなければ根こそぎやられる。イルカ、小型鯨類に「休漁」なんて通じないわけだし。
https://twitter.com/azukiglg/status/244707570873417728


これもまた鯨食害論である。イルカであろうがクジラであろうが間引きが漁獲増加に貢献すると主張する専門家を見たことがない。

また、沿岸小型鯨類の捕獲を制限した結果、それらの頭数が増えた結果、小型鯨類の群れ毎のスタンピート(上陸暴走)や航路妨害(船舶との衝突事例)が増えてるような、というか色々目に付く機会が増えてるような……。結局、彼らが増えすぎることは我々人類にとってもよくない。
https://twitter.com/azukiglg/status/244707954148904960


イルカは増えているのか?下図は前出のChristensen (2006)より。
151-03.png
船の数が増えて高速化すれば、海獣が減っていても衝突事故は起こることは前に上げた↓の中でも論じられている。

Baleen whales: conservation issues and the status of the most endangered populations
Clapham et al., 29: 37- (1999)

また、鯨類は人類が利用するだけでなく、海洋生態系の中でも重要な役割を果たしている。そのバイオマスがかつてないほど減少しているのを憂いて、人為的な海獣の死を減らそうと努力しているのだよ。

Bigger is Better: The Role of Whales as Detritus in Marine Ecosystems (Smith)
Whales, Whaling, and Ocean Ecosystems, (2007)
https://www.soest.hawaii.edu/oceanography/faculty/csmith/Files/Smith-%20Bigger%20is%20Better.pdf

The Impact of Whaling on the Ocean Carbon Cycle: Why Bigger Was Better
Pershinget al., PLoS One 5(8): e12444 (2010)

Bones as biofuel: a review of whale bone composition with implications for deep-sea biology and palaeoanthropology.
Higgs et al., Proc Biol Sci. 278: 9- (2011)

寿司が世界に広がった、とかそういうことだけでなく、世界人口の増大は蛋白質を海にも広く求めるようになり、流通の発達は沿岸部の魚類を内陸に運ぶようになった。つまり、それだけ「海の蛋白源の世界規模での活用」が増えているわけで、クジラがそれを摂取することを現代は過去ほど寛容になれない。
https://twitter.com/azukiglg/status/244708576571043840


科学者が何を論じているかは以下の論文で概観できる。
Fishing down marine food webs
Pauly et al., Science 279: 860- (1998)

Rapid worldwide depletion of predatory fish communities
Myers & Worm, Nature 423: 280- (2003)

Impacts of biodiversity loss on ocean ecosystem services
Worm et al., Science 314: 787- (2006)

The unique ecology of human predators
Darimont et al., Science 349: 858- (2015) 

漁業の例では、スーパー捕食者たる人間が大型動物(鯨類も含む!)を次々と減らし、標的が小型化しつつある傾向が見て取れるということ。クジラのいる海というのは、クジラがいられるほど生態系が充実しているということであり、人間も(漁業が適切に行なわれるなら)その恩恵を受けるだろう。ダニエル・ポーリーは、このまま魚を食い尽くしていくなら人類最後のシーフードメニューはクラゲのスープみたいなのしかなくなると言っている。

その他参考になりそうなところ。
http://katukawa.com/?p=1003
https://newrepublic.com/article/69712/aquacalypse-now
http://www.fishingdown.org/

ポール・ワトソンよろしく人類全てがベジタリアンたることが可能かというと、ほとんどの人間は動物性蛋白質の摂取なしに人体を維持できない。「それなら維持できる人間だけに生存を許し、それ以外の人間は淘汰されるべきである」という主張に正義はあるかというと、大多数は淘汰されることに同意しない
https://twitter.com/azukiglg/status/244709582981701633


世界全体で食糧の公平な分配を目指すなら、大量生産大量流通大量消費大量廃棄が常態の国は肉や魚を食う量を減らしたほうがいい。完全にベジタリアンにならなくても、週の半分ほど肉や魚を食わなければ大分変わる。良質な肉や魚を少量食べるようにした方が健康にはいいだろうし。

Vegetarian, vegan diets and multiple health outcomes: a systematic review with meta-analysis of observational studies.
Dinu et al., Crit Rev Food Sci Nutr. (2016)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26853923

ですです。捕鯨は自分が鯨を食べなくても「捕鯨したほうが結果的に得」なんですよ RT ‪@moltoke_Rumia1p‬: ‪@azukiglg‬ ( ̄∀ ̄) だから、単純な損得勘定まで噛み砕いて説明するのが最善かもなぁと。 それはあなたに損ですよ。止めましょうと。
https://twitter.com/azukiglg/status/244710602256310272



「捕鯨した方が結果的に得」という根拠が全くないわけだが。以上ざっと書いてみましたが、詳しい人ならもっと突っ込みどころを見つけられることでしょう。
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