3500-13-12-2-1

ツーリングの記録等に使おうと思っていたが。。。タイトルは最初の記事の3500km, 13日, 12ヶ国, 自動二輪, 空冷単気筒の意。

ルイセンコは死なず

 獅子が大きなしっかりした声で云いました。
「お前たちは何をしているか。そんなことで地理も歴史も要ったはなしでない。やめてしまえ。えい。解散を命ずる」
 こうして事務所は廃止になりました。
 ぼくは半分獅子に同感です。

 宮沢賢治 猫の事務所 ……ある小さな官衙に関する幻想…… より


 ルイセンコ事件は政治が科学を腐敗させた有名な事例である。
http://meme.biology.tohoku.ac.jp/introevol/Page27.html
http://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili/keitou/gokai02.html
http://www.0600design.com/archives/2005/11/post_143.html

欺瞞:
鯨類研究所の唱える「鯨食害論」と「シロナガスクジラの回復をミンククジラが妨げている」という話は、捕鯨推進の両輪とも言える説であるが、(既に何度か批判したが)ここでも批判しよう。

「鯨食害論」について

 鯨類研究所は魚介消費を単純比較したグラフを示しただけで「クジラが人間の3-6倍のサカナを消費している」とさも驚いたように言っているが、では昔はどうだったのか、どのくらいなら「正常な」許容範囲なのかも述べていない。当然ながらこれに答えられるとは思えない。昔はもっとクジラがいて多くの魚介を消費しつつも、人間の漁業には影響していなかったはずだからである。

 クジラが漁業への脅威であるということを立証するには多くのステップが必要になる。

1 海獣は比較的大型で呼吸のために浮上して来るので目立ちやすく、このため漁業関係者からは害獣という印象をもたれやすい。この印象が本当かどうかを検証するのが科学である。

2 クジラは人間が利用しない空間のサカナを主に食べている可能性がある。漁業海域とクジラの分布、さらに双方が利用する空間や魚種、季節的変移など多くの要素を調べる必要がある。

3 クジラは、商業利用されるサカナだけでなく、それらの捕食動物も食べている可能性がある。この場合、クジラは間接的に漁業をアシストしている面もあることになるので、クジラを間引いた結果、短期的に漁獲が増えても長期的には漁獲が減る可能性がある。数学モデルによるシミュレーションも必須となる。

4 そもそも近代捕鯨が始まる以前はほとんど手つかずだった(ある意味保護されていた)クジラが最近になって漁業の競争相手になったというのは何かおかしくないか?

 こういった地道な検証をすっ飛ばした「鯨食害論」が自称懐疑論者たちの標的にされないのは不思議である。

「シロナガスクジラの回復をミンククジラが妨げている」説について

 まずもってシロナガスクジラの回復をミンククジラが妨げているというのは「仮説」であり、証明された「事実」ではない。仮説は検証される必要があるが、発表されてから10年以上経っても支持する事実の蓄積もなく、基本的な質問に何ら具体的な回答ができないことが明らかになっている。最初の「仮説(というよりむしろ貧弱な思いつき)」のまま何の進展もないのだ。
http://www.e-kujira.or.jp/geiron/ohsumi/1/#c1

 この仮説を検証するためには南極のクジラやその他の生き物の生態を詳細に調べる必要があるが、鯨類研究所が異様にこだわるのはミンククジラを捕殺して胃の中を調べるということである。いくらミンククジラの胃の中だけを調べてもこの仮説は検証できない。ところがそんなことはおかまいなしに、「餌をめぐる競争によりミンククジラがシロナガスクジラの回復を妨げいている可能性がある」「ミンククジラを間引くことでシロナガスクジラが回復する可能性が高い」という根拠薄弱な「仮説」がいつの間にか「確たる事実」にすり替わるという疑似科学的展開をみせている。

 難病の治療にしろ絶滅危惧種の保護にしろ、多くの場合科学は華麗な回答を与えるものではない。魔法じゃないのよ科学は。「個体群の遺伝的多様性の解明」「繁殖生態の解明」などの地味な検証が行われるのが通常だ。「鯨食害論」にしろ「シロナガスクジラの回復をミンククジラが妨げている説」にしろ、検証すべきステップ(因にこれらの説の検証過程でクジラを捕殺する必要はほとんどない)や挙げるべき根拠をスキップして「捕鯨せよ」と主張しているのだ。捕鯨に都合の良い仮定がいつの間にか「事実」として扱われている。疑似科学の正式な定義がどうなのかは知らないが、少なくとも科学としてはお粗末である。

 某漫画では捕鯨に反対する架空の団体を愚かで醜く描くまるで大日本帝国の宣伝ビラのような手法が使われているが、現実に存在する捕鯨の主体たる鯨類研究所こそこれに劣るとも勝らないものではないのかね。

 別に専門家じゃなくても健全な懐疑精神をもった人なら同様の疑問をもつだろう。
駒沢亭日乗:捕鯨についてのまとめ
http://komazawa.blogzine.jp/diary/2007/06/post_605f.html

 これでは外国の科学者から相手にされないのも当然である。論文がアクセプトされない理由は「調査捕鯨が法的にグレーだから」とか「科学誌の編集部や査読者がクジラ保護論者だから」とかいう以前に、一般相手の説明でこれだけの疑似科学っぷりなのだから「論文が掲載にたる科学的価値をもたないから」というのが第一の理由だろう。

沈黙:
では日本の鯨類学者はそろいもそろってボンクラなのか?それはちがう。専門家が集団でこのような凡ミスをするとは考えにくいし、IWCなどでまっとうな科学的批判を受けているはずだ。ではなぜあやまちを改められないのか。以前にも書いたが、これこそが現在進行形のルイセンコ事件たる所以である。日本の雑誌はなかなか読めないが、抜粋して下さった方がいる。

葛の篭:なぜ調査捕鯨論争は繰り返されるのか
http://d.hatena.ne.jp/tomonee/20080208

現在、漁業資源管理を専門とする学者の間では調査捕鯨に疑義を表明することはタブーであると聞く。


 私が最初にもった疑問「他の専門家は調査捕鯨をどう考えているのか?」が解決しつつある。捕鯨を強く批判している専門家は海外には多くいるが、日本では既に退職された粕谷先生一人だけであろう。メディアに登場して捕鯨推進を唱えるのは水産官僚、捕鯨産業関係者、そして鯨類研究所の一部の人間だけであり、これがグリーンピースと論争するのだからとんだ目くらましだ(専門家に素人がいちゃもんつけているように見える)。

 これだけのお粗末な科学について、鯨類研究所の中にいる研究者の生の声は聞こえてこない(パンフレットが不十分なのだからブログなりなんなりで補足すればよいのだ。もしそれが出来るのであれば)。その他の海洋生物学者は賛否を明らかにしていない。ここに日本のクジラをめぐる科学の不健全さがあらわれている(王様が本当にすてきな服を着ているなら鯨類研究所以外の専門家たちがその服の素晴らしさを解説してくれるはずだと思うんですがね。本当は服なんか着ていないんじゃないですか。数ヶ月間真剣に見てきたつもりだが、私にはすてきな服が見えてこない)。

 鯨類科学の発展よりも捕鯨の継続が政治的理由により重視されているのだ。海洋哺乳類のような分野ともなると研究者のコミュニティーは小さな村の様なもの。その小さな村で誰も「王様は裸だ」と言えず、政治が科学を腐敗させている事例が現在進行中なのである。ルイセンコはいまここに復活している(自由の国の51番目の州かと思えばソ連邦に加入したりと色々仲間の多い国だな)。だが関係者を自浄能力のない無能と糾弾することは厳に慎みたい。こういう話はどこにでもあるだろうし、そうしたことを経験したことのない私が好運なだけかもしれない。

 私は科学の関係者のようなものだからして小市民的プライドやノスタルジー、国策、官僚利権、捕鯨産業などよりも同業者の利益と名誉を尊ぶ。だから言う。「調査捕鯨」で失墜した日本の鯨類学の面子を立て直すためには「調査捕鯨」の中止が必要である。
追記1
「シロナガスクジラの回復をミンククジラが妨げている」説について
http://www.whaling.jp/isana/isana10.html
http://www.e-kujira.or.jp/geiron/ohsumi/1/#c1

この説がかなり確かなものであると言うためには、

1 シロナガスクジラには資源をめぐる競争相手がおり、その最大の相手がミンククジラである可能性が高い(その他のアザラシなどは脅威ではない)

2 ミンククジラとの資源をめぐる競争こそが、シロナガスクジラが回復しない主たる原因である可能性が高い(二百年間ほっとけば自然に回復するとか、既に回復不能とかいうことはない)

3 ミンククジラを間引くことでシロナガスクジラが回復する可能性が高い(その他のアザラシなどが増えたりするんじゃなくて)

この3点くらいはおさえる必要があると思いますが(とくに間引きの前提として1と2は必須)、いくらもとの文章を読んでもシロナガスクジラとミンククジラのどのような競争関係が立証されたのかすら私にはよくわかりません。

Observations of blue whales feeding in Antarctic waters
Corkeron et al., Polar Biology 22: 213-215 (1999)

はオーストラリア、ニュージーランドの人と鯨類研究所の人の共著なのでかなり信頼できると思いますが、アブストラクトはこんな感じです。

There are no published accounts of blue whales (Balaenoptera musculus) feeding in Antarctic waters. This note describes the behaviour of two groups of blue whales feeding in Antarctic pelagic waters. Whales were observed during the 18th IWC/IDCR southern hemisphere minke whale assessment cruise. Feeding behaviour in both cases resembled those described previously for both northern hemisphere blue whales and fin whales (B. physalus). These observations suggest that a programme of comparative behavioural observations could be developed to test the ''feeding competition'' hypothesis, which suggests that recovery of populations of blue whales will be impeded by feeding competition with sympatric minke whales.


競争があるというのも仮説の段階ですな。間引きの前提すら確実じゃないんだからミンククジラを間引けなんて言えるわけないと思うんだけど。

グラフから読み取れるはずのない競争関係を読み取ったり、仮説をいつの間にか事実に昇格させたりといった超能力には舌を巻くばかりです。絶対身につけたくない超能力ですが。まぁ、私はもう捕鯨推進派と議論して勝てるとも思っていないのでどうでもいいです。凡人は超能力者相手には勝利できないでしょう。

追記2
粕谷先生のお名前を間違えていた箇所があったので訂正。
粕谷俊雄が正しく、粕谷敏雄は間違いでした。失礼しました。

追記3
カテゴリーにDon't kill the whaleというのを設けて捕鯨関連の記事をまとめました。私がYesのファンだからであり、単純にクジラを食べたいだけの人に文句をつけるつもりはありません。
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