3500-13-12-2-1

ツーリングの記録等に使おうと思っていたが。。。タイトルは最初の記事の3500km, 13日, 12ヶ国, 自動二輪, 空冷単気筒の意。

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問題はガンだけなのか?

アリやキリンを見なければ
そんなものがいるなどと
誰が本当に信じるか
あれやこれやの博士たち
一万人もあつまれば
ジャングルのうちの半分を
理屈のうえでは消しかねぬ

ジョン・チャーディの詩 スティーヴン・グールド著「ダーウィン以来」より


 DDTといえば特に発ガン性の有無が注目されていますが、「沈黙の春」の中でカーソンは発ガン性のみならず、神経系への影響も論じています(Chapter 12 The Human Price)。そして最近、DDTの発生中の神経系への影響が報告されました。DDTが子供の神経系の発達に悪影響を与える可能性が示唆されたわけです。

Prenatal p,p´-DDE exposure and neurodevelopment among children 3.5-5 years of age.
Torres-Sánchez et al., Environ Health Perspect 121:263- (2013)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23151722

 さらに下の総説論文では、有機水銀、PCB、ヒ素、DDTなどが神経発生に影響し、子供に自閉症や学習障害などを引き起こす可能性がレビューされています。神経毒性は知られつつも、神経発生への影響は検証されていない化学物質が数百あることや、これらの複合的影響を検証することの困難さが論じられています(丁度カーソンが「沈黙の春」で論じたように)。今後の対策を論じた部分では、新しい化学物質や技術の危険性が確認されない限り安全と見なすことの不適切さが指摘されています。厳密な証拠を求める通常の科学的手法はこのような問題には適しておらず、毒性の証拠の確かさは、神経発生への毒性が無視されてしまう影響や対策がとられないことによる損失を考慮に入れ、社会的文脈で吟味されるべきと論じられています。

Neurobehavioural effects of developmental toxicity.
Grandjean & Landrigan, Lancet Neurol 13:330- (2014)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24556010

 このように、最初の合成から100年以上、カーソンが問題にしてから50年以上経過してもなお、DDTには新たな毒性が報告され、議論は続けられています。

 メチル水銀についても、ある程度の潜伏期間をおいてあらわれた影響を論じたレビューでこのように言われています。

If any lesson is to be derived from the examples discussed in this article, it is that the conventional tenets of toxicology need to be observed with a considerable degree of skepticism. We should be convinced, not by dogma, but by a deep understanding of mechanisms.

Weiss et al., Environ Health Perspect 110(suppl 5):851–854 (2002)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12426145


 DDTにも低線量被曝にも急性の影響は知られていませんが、とくに長期的影響や胎児/乳幼児への影響は慎重な調査が必要でしょう。原発事故による被曝の場合、環境中に放出された放射能がどのような形でどのような挙動をとるのか、誰がどのような形でどの程度被曝したのかをコントロール出来ないことが最大の問題なわけです。さらに被曝リスクに晒される人の遺伝的背景や健康状態も多様です。下図のGuillette & Iguchi (2012)の解説に、さらに放射能という何のベネフィットもないものが加わった状態といえます。
contamworld
http://www.csub.edu/~kgobalet/files/Bio605/Guillette2012_ContamWorld.pdf


 事故以来よく見かける議論の一つに、被曝が原因で鼻血がでるかどうかというのがあります。これに関して、以下の記事を見つけました。白血病とガンだけ考えれば99%よい?

このような詳しい説明は、中西準子先生の最近の著書「原発事故と放射線のリスク学」をお読みいただけると幸いです。短期的には白血病と長期的には発がんを考えれば99%よいのです。これが999:1の999側の論理です。
http://www.yasuienv.net/NoseBleed.htm


とまぁ、マラリアについてデタラメ言ってる人たちが自信満々に言ってくれてるので、私としてはこれを鵜呑みにする気がおこりません。原発事故と鼻血の関係を論じたものがあるかどうか検索したところ、下の文献がヒットしました。

Health effects in a casual sample of immigrants to Israel from areas contaminated by the Chernobyl explosion.
Kordysh et al., Environ Health Perspect 103: 936–(1995)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1519167/

 チェルノブイリ事故後、イスラエルに移住した人たちを対象にした調査では、鼻血、喘息、高血圧などが有為に多かったとあります。事故当時胎児だった子供たちには喘息が、大人では高血圧が多くみられたと。特に高血圧については、ストレスやバイアスだけでは説明出来ないと論じられています。女児に多く見られた鼻血については、バイアスか、骨髄への被曝で白血球数が変化したか、と大雑把な考察しかなされていません。

Our observations also indicate that effects other than cancer should be investigated.
Kordysh et al., 1995


 この結果が直ちに他の集団にも当てはめられるわけではありませんが、それでもなお、sivadさんの考察は、Kordyshらも受け入れるのではないかと思います。

 そして東電の原発事故についても、鼻血増加の報告はあります。

水俣学の視点からみた福島原発事故と津波による環境汚染
中地重晴 大原社会問題研究所雑誌 No.661/2013.11
oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/661/661-01.pdf

 津波により破壊された工場からのPCBや重金属の流出、解体工事によるアスベスト飛散、さらに放射能汚染の3種の環境汚染を論じつつ、健康被害について、福島県双葉町でコントロールに比べて鼻血が多かったとされています。

 またこのルポの中でも鼻血などの症状を訴える被災者が出てきます。ストレスが原因と推測していますが、原因が特定されたわけではありません。

 現時点では鼻血が増加したかどうか、鼻血と原発事故に関係があるかどうか、いずれもはっきりしたことは言えませんが、原発事故による被曝で(統計に現れる程かどうかはわからんが)鼻血が出るかもしれないと推論すること、そのメカニズムについて考察することがそれほどおかしなことだとは思いません(罵倒コメントが殺到する方が異常だろう)。DDTの毒性について、影響ありとする報告と影響無しとする報告が混在する以上、毒性の可能性を無視出来ないのと同様です(参考:http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-116.html)。Kordyshらが言うように、ガン以外の健康被害を考慮する必要があるのではないでしょうか。鼻血はガン以外の影響の一部なのかもしれません。逆に、鼻血は出ないとする人たちは、何なら起こりうると考えているのでしょうか?ガンだけを考えていれば「99%」OKなわけ?

 冒頭で見たように、わりと有名な毒物についても、今まで知られていなかった毒性が新たに報告されることがあります。同様に、原発事故もガン以外の被害をもたらしている可能性は否定出来ません。環境中にまき散らされた放射能が有害物質(既に存在するものや、津波や事故で流出したもの)と複合して影響する可能性もあります(カーソンやGuillette & Iguchiが論じたように)。この場合、放射線被曝単独の影響を考えるだけでは不十分です。

 何を懐疑の対象とするのかは人それぞれかもしれませんが、現在進行形の公害への対応は、上でGrandjean & Landriganが論じたように、実験室内の科学とは異なる基準が要求されます。厳密な証明がなされなければ健康被害などないというのであれば、それこそ懐疑の売人であり、健康に不安を抱える人たちがその不安を表明することすら「非科学的」として圧殺するものです(参考:http://hirookay.blog.fc2.com/blog-entry-79.html)。

A demand for scientific proof is always a formula for inaction and delay, and usually the first reaction of the guilty.
Oreskes & Conway, Merchants of doubt より


追記
 本文では人間の健康に焦点を当てましたが、野生生物への影響も当然懸念されます。これについてもいくつか論文は出ていますが、ここでは以下の文献から抜粋したいと思います。

樋口広芳 放射能汚染が鳥類の繁殖、生存、分布に及ぼす影響
http://www.scj.go.jp/ja/event/houkoku/pdf/110628-houkoku4.pdf

福島原発関連で重要なのは、陸に加えて海の生物多様性や生態系への影響を調査することである。福島原発はチェルノブイリの原発とは違って沿岸部にあり、放射性物質は海にも流れ出ている。海への影響は、チェルノブイリの例から探ることはできない。新たな視点と方法によって、海の生物の個体数、突然変異率、生存率、繁殖率などを広範囲にわたって調べていく必要がある。私たち日本人は、食生活のうえで魚介類や海藻など海の生物多様性に大きく依存している。海の生物多様性や生態系への影響を探ることは、きわめて重要な課題である。

さらに海の場合には、放射性物質は空中からだけでなく海流によっても拡散する。国内だけでなく、近隣諸国の水産業などへの影響も考えなくてはならない。この点でも日本は重大な責任を負っている。

モニタリングにあたっては、長期にわたって広範囲に実施できるしっかりとした体制を構築する必要がある。また、異なる地域、異なる時期で比較できる方法の統一が重要である。継続して実施するためには、競争的資金によらない継続性のある研究費を設定する必要があるだろう。


 シビアな原発事故の経験がそれほど多くない上、それぞれ固有の条件(原子炉の型、事故の経緯、放出された核種と量、気候、立地、事故後の対応など)があるため、人類が原発事故について充分な知見を持っているとも思えません。影響も均一ではないはずです。上に抜粋したとおり、原発事故の人への影響、野生生物への影響を継続的にモニターする体制を構築する必要があるわけです。今求められているのは、リスクにさらされる人びとの利益を「科学的確実性」の名の下に損なわず、合理的な意思決定を補助できる、科学的に妥当な見解でしょう。
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