3500-13-12-2-1

ツーリングの記録等に使おうと思っていたが。。。タイトルは最初の記事の3500km, 13日, 12ヶ国, 自動二輪, 空冷単気筒の意。

R is for Rachel (4/5)

レはレイチェルのレ 第4話 「沈黙の春」の現在の評価

「失敗には達人というものはいない。人は誰でも失敗の前には凡人だ。」 プーシキン「大尉の娘」


 「沈黙の春」出版から50年の節目ということで、サイエンスに2つの論評が掲載されました。

Insecticide Resistance After Silent Spring
Heckel, Science 337: 1612- (2012)
http://www.sciencemag.org/content/337/6102/1612.summary

 全文はここで。
http://pubman.mpdl.mpg.de/pubman/item/escidoc:1544139/component/escidoc:1695303/HEC233p.pdf

 一つめは殺虫剤抵抗性の獲得メカニズムを概観し、通常の作物でも遺伝子組み替えでも害虫への対応は一筋縄ではいかないことを論じたものですが、最終段落をこう締めくくっています。

Forewarned by the long history of insecticide resistance, the deployment of transgenic crops for insect control has incorporated resistance management plans from the beginning. Unfortunately, this has not been the case for transgenic crops engineered for herbicide tolerance. Greatly increased spraying to control weeds in these new crops has led to a rapid rise of herbicide resistance in several weed species (24), and agronomists must now follow entomologists in learning the hard lessons of the past 50 years.


 文献24はは2011年に発表されたもので、グリホサート耐性種への対応がようやく模索され始めたことを論じています。

Herbicide-resistant weed management: focus on glyphosate
Beckie, Pest Manag Sci 67: 1037– (2011)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21548004

 グリホサートの代表的なものがモンサント社のラウンドアップであることを考えると、彼らはカーソンから何も学んでいないのではないかとさえ思えます。釈迦の掌上のサルのようなもので(この場合カーソンが釈迦)、さらに悪いことにこのサルは自分が釈迦の掌上にいることにいつまでも気がつかないため、三蔵法師の旅に加わることもないのです。

 もう一つは汚染物質への曝露が複雑な影響を長期的にもたらす可能性を論じたものです。

Life in a Contaminated World
Guillette and Iguchi, Science 337: 1614- (2012)
http://www.sciencemag.org/content/337/6102/1614.summary

 全文はここで。
http://www.csub.edu/~kgobalet/files/Bio605/Guillette2012_ContamWorld.pdf

 過塩素酸塩の甲状腺への影響が体内のヨウ素濃度によって変化することなどを例に、汚染物質の健康への影響は、遺伝的及び環境的な諸々の要因を考慮に入れなければならないと説きます。汚染物質に加えて、栄養状態やストレスなどの環境要因と、エピジェネティックな修飾を含む遺伝的要因が複合的に現在と未来の世代に影響を与える可能性を論じています。汚染物質の複合的な影響や長い世代にわたる影響については今後も注意深く見張っていく必要があります。ところで著者達は言及していませんが、汚染物質には化合物以外にも、新たに加わったセシウムやストロンチウムなども当然含まれますよね。「沈黙の春」の中にも放射性物質への言及がありますし。

 世界を汚染してしまったのは、人間の明白な失敗です。放射能を含む低濃度汚染物質の健康や環境への長期的影響について何か断言できる人間がいるとすれば、その人は各個人の遺伝的バックグラウンドや栄養状態と汚染物質の影響(Guillette and Iguchiが解説したような諸条件)を直ちにすべて解析出来る能力を持った人か、プーシキンが存在しないと言った失敗の達人でしょう。

 マラリアを防げるかもしれない一方で健康や環境への被害があるかもしれないのがDDTですが、こんなふうに科学的な結論がはっきりしない状態で何か決めなければならないとき、どうすればいいのでしょうか。この間読んだ本にヒントらしきものがありました。

Sheila Jasanoff, a professor of science and technology studies at Harvard University, has clearly refuted the fallacy that "the facts" present us with some inevitable and perfect technical solution to policy problems. Rather, as Jasanoff explains:
"In regulatory science, more even than in research science, there can be no perfect, objectively verifiable truth. The most one can hope for is a serviceable truth: a state of knowledge that satisfies the test of scientific acceptability and supports reasoned decision making, but also assures those exposed to risk that their interests have not been sacrificed on the altar of impossible scientific certainty."

Shulman, Undermining science: Suppression and distortion in the Bush administration University of California Press (2008)


 ちなみに引用符の中の言葉はJasanoffの著書 "The Fifth Branch: Science advisors as policy makers" からの引用だそうです。

意訳
 ハーバード大学の科学技術論の教授であるSheila Jasanoffは、「事実」が政治問題に必然的で完璧な技術的解法をもたらすという誤謬を明確に否定した。Jasanoffはこう説明する。
「レギュラトリーサイエンスには、研究調査科学がそうである以上に、完璧で客観的に立証出来る真実などない。最も望めるのは実用的な真実である。すなわち、科学的に受容可能であり、筋の通った意思決定をサポートし、なおかつリスクに曝される人々の利益があるはずのない科学的確実性の名の下に犠牲にされていないことを保証する知のあり方である。」

 リスクにさらされる人びとの利益を、科学的事実を求めるふりをして踏みにじるのがサウンドサイエンスの特徴の一つです。公害の被害者などにとってより重要なのは、因果関係の科学的証明よりも人権の回復の方なのですが、「真実」にこだわる装いで人権救済措置を遅らせるのがサウンドサイエンスであり修正主義ということでしょう。人権の回復を求める者への憎悪が修正主義の根源という話にはすごーく説得力を感じます。

前の話 R is for Rachel (3/5)
次の話 R is for Rachel (5/5)
2014. 8. 1 追記

ネイチャーに載った書評も紹介しておこうか。
In retrospect: Silent spring
Dunn, Nature 485: 578- (2012)
http://www.nature.com/nature/journal/v485/n7400/full/485578a.html

 書評の最後では、現代の抱える問題を通してこの本をみるのは避けがたいこととし、破滅か、理性によって破滅を免れるかを論じている。

 ちなみに「沈黙の春」出版直後、1963年にネイチャーに載ったブックレビューへのリンクもある。
http://www.nature.com/nature/journal/v198/n4876/pdf/198117a0.pdf

 そして、やはりこの書評に噛み付く連中があらわれるのであった。

Correspondence: Carson no 'beacon of reason' on DDT
Trewavas et al., Nature 486; 473 (2012)
http://www.nature.com/nature/journal/v486/n7404/full/486473a.html

 他にはRichard Tren(あのCato Instituteのアレを書いた奴だ)らが名を連ねてますな。1972年にDDTが禁止されてからマラリアが10-100倍に増えたと書いているが、何を根拠にそう言ってるのかさっぱり示されてないのだ。DDTの禁止がマラリア流行の引き金になったと言えることを証明出来れば、歴史を書き換えるレベルの発見なのだが。
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