3500-13-12-2-1

ツーリングの記録等に使おうと思っていたが。。。タイトルは最初の記事の3500km, 13日, 12ヶ国, 自動二輪, 空冷単気筒の意。

過去を書き換えた影響

 ドラえもんには、過去への干渉が法律で禁止されているという設定が出てくることがあります(設定に矛盾が出てくるのは長期連載の常で、他のエピソードではその禁止事項が平気で破られたりしますが)。タイムトラベルの取り扱いの設定はエピソードごとに多少変化がありますが、過去を変えることが未来に重大な影響を及ぼすことはたびたび説明されます。例えば、過去を変えたことで本来ならしなくて済んだ怪我をする話があったりします。

 歴史修正主義がなぜ批判されるのかといえば、過去の事実を歪めることは、現状の認識を誤らせ、未来の問題解決を遠のかせるからでしょう。歴史や進化生物学など、技術的応用に結びつかないが人びとの世界観を規定するような分野は、学問的事実がないがしろにされやすく政治的攻撃を受けやすいように見えます。しかしまた、一見関係ないように見える分野にも修正主義は現れます。

 自分が取り上げた捕鯨問題と「沈黙の春」を例に、過去をねじ曲げた影響を考えてみると以下のような感じでしょうか。

 まず捕鯨問題ですが、これは日本の乱獲や海賊捕鯨の歴史がまったく語られない点や文化論が捏造された点で歴史修正主義的一面があります(参考:http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-96.html)。「捕鯨の優等生日本に言いがかりをつけ、文化を破壊する無反省な欧米」という捏造された構図は、捕鯨批判に耳を傾ける必要はないという態度につながっています。さらにこの文化論を盾にした対話拒否の姿勢は現在の他の議題(たとえばマグロやウナギ)についての日本のめちゃくちゃな実態を覆い隠し、資源保護の将来に暗い影を落としています。とどめに日本の鯨類科学が停滞を強いられていることも無視されるのです。

 捕鯨問題はごく小さな問題なので(だからこそあめりかサマも水産官僚のオイタを大目に見てくださる)、捕鯨さえやめていれば現在の問題は雲散霧消していたとは考えられませんが、それでもなお、「日本はクジラを大事に利用してきた優等生」という具合に歴史を書き換えたことは、現代日本の動物や食料の扱いにも暗い影を落としているのではないでしょうか。例えば、捕鯨の話題になると突然思い出したように獲物への感謝とか言われますが、食料となってくれた生き物に感謝する心が本当にあるなら食料を廃棄するために輸入している日本の現実に正気を保てないでしょう。その他にも、日本の動物福祉の後進性にも歴史を修正した影響があらわれているのかもしれません(参考:新手の捕鯨擁護論説 http://kkneko.sblo.jp/article/16120003.html

 二番目の「沈黙の春」に対する修正主義者の攻撃についてですが、オレスケスらは著書「Merchants of doubt」の中で、化学物質への規制緩和をもくろむ業界の動機を指摘しています。カーソンのせいでマラリアの犠牲者が増えたという「過去」をでっち上げることで、今後の産業活動への法規制を回避しようという魂胆です。それ以外にどういう影響があるしょうか?直接的には実際のマラリア防御研究が見えづらくなることが挙げられます。マラリア防御への理解が殺虫剤を撒けばいいという程度にとどまるのは、実際のマラリア防御には好ましくありません。例えば誰でも参加出来るマラリア防御研究プロジェクトがあるのですが、こういうのは顧みられなくなります。
http://www.malariacontrol.net/impressum.php

 現在のマラリア防御研究をいくつか見てみましたが、DDTが対マラリアの切り札とは言えなそうです(Rogan and Chenによる総説の中でも、DDTがマラリア防御に最も有効な手段であるという証拠は存在しないことが指摘されています。参考:http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-116.html)。もしDDTだけでマラリアが防げるんなら何で天下のサイエンスにまだこういう↓論文が載るんだよ、という気もします。

Malaria in the Post-Genome Era
Greenwood and Owusu-Agyei, Science 338: 49-50 (2012).

Quantifying the Impact of Human Mobility on Malaria
Wesolowski et al., Science 338: 267-270 (2012).

 修正主義者の目的はカーソンの評価をおとしめ、産業規制につながる環境保護意識を軽んじる風潮を作ることですが、ネットなどではある程度は成果をあげているようにみえます。松永氏は「沈黙の春」について「大きな価値がある」と一定の譲歩をしているのですが、末端の受容はこうなります(修正主義者にとってはこうしたことは願ったり叶ったりなのですが)。
silent-spring.jpeg
http://togetter.com/li/156822

 東京新聞(中日新聞)が社説で現在の核災害と「沈黙の春」を対比的に論じたとき(「週のはじめに考える 『沈黙の春』と原子力」 2012年10月21日)、予想通りツイッターの一部ではこのような反応がありました。どういう人たちがこの手の話を好むかは(以下略)。

https://twitter.com/neologcutter/status/259986163060862977
https://twitter.com/deadcatbouncepn/status/259986076846927872
https://twitter.com/Dairanju/status/259973429741109248
https://twitter.com/hhhira/status/259949122889601025

 Foocomの記事にある「沈黙の春」への攻撃はおよそ不当なもので、むしろカーソンの基本的な正しさを確信させてくれます(参考:http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-119.html)。Yoshida and Kanda (2012)も論じているとおり、環境中に放出された放射能の挙動は注意深くモニターする必要があり(下図)、これはちょうど殺虫剤が自然界でどのような振る舞いをするかを描いた「沈黙の春」を想起させます。要するに社説の論旨は何らおかしなものではありません。


Yoshidaandkanda.jpeg
Although the radiocesium distribution around the FDNPP is relatively well understood (see the first figure), the processes by which it is transferred—e.g., from forest canopy to ground soil and aquifers, terrestrial biota, river and lake systems, and eventually to marine systems—are yet to be depicted quantitatively.

Tracking the Fukushima Radionuclides
Yoshida and Kanda, Science 336: 1115- (2012)


 社説関連以外にも少し拾ってみましたが、レイチェル・カーソンを否定することこそ理系の証、知性の証明とでも思われてるんでしょうか。

(上のツイートを2013.6.12追加)
https://twitter.com/rinritan/status/266768196223262720
https://twitter.com/kuratan/status/160029674976706560
https://twitter.com/ontheroadx/status/275248501573685248
https://twitter.com/PolkaDotsQuant/status/275194184485437442

 レイチェル・カーソンは間違っていたという歴史を捏造したことは、環境保護を軽んじる風潮を後押ししています。そういえば、日本国内のクジラの議論には野生動物保護という観点が欠落しているという指摘もありました(捕鯨問題についてのニセ科学批判者の見識は、私がやる気がないと酷評したグリーンピースをはるかに下回るものだった)。日本近海に生息するコククジラ太平洋西系群やミンククジラJ系群が全滅の危機にあることは殆ど報道されていません。

 科学に詳しかったり、知識の正確さに重きを置く人がこうしたプロパガンダについて意外なほど無力なのを見てきました(かくいう自分もダマされていたわけですが)。こうしたことについて、科学リテラシーが足りないという説明は全く的外れなように思えます(丹念に文献を探して読むという基本的リテラシーを発揮していれば充分避けられたものではあるが)。個人的資質以外の理由が何かあるのかも知れません。
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