3500-13-12-2-1

ツーリングの記録等に使おうと思っていたが。。。タイトルは最初の記事の3500km, 13日, 12ヶ国, 自動二輪, 空冷単気筒の意。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

懐疑論と修正主義





 修正主義は懐疑論の装いをとるため、懐疑論と修正主義は紙一重なところがあります。新発見が旧来の迷信を打ち破り、新発明が生活を豊かにしてきたという直線的発展史観は、専門家から見ればアナクロな迷信のようですが、私のような門外漢はやはりそうした輝ける科学の歴史の幻想を抱いてしまいます。一般的に人は目新しい話に目がないものなのでしょう。新事実の発見による定説の否定という、受けのいいストーリー展開を利用するのが修正主義の手口です。(参考:http://d.hatena.ne.jp/rna/20080104/p1

 ニセ科学批判を趣味や職業とする人間の中に歴史修正主義者がいるのは私もうすうす気になっていました(参考:http://d.hatena.ne.jp/toroop/20090601/p3)。歴史修正主義はレイシズムと分ちがたく結びついています。自然科学分野のニセ科学を批判する程度の事ならレイシストの理科オタクでも出来る、ということでしょうか。ホメオパシーなどを批判するのには専門的な科学の知識は要りませんし。ところが、それなりの専門家や強力な学問的権威と結びついた疑似科学はそれと見破るのが困難になります。政府やメディアがちょっと偏ると、ニセ科学批判を趣味とする人間が疑似科学の片棒を担ぐようになります(参考:捕鯨問題に見るエア御用)。

 他にはこんな話があります。

「沈黙の春」の検証が進まない不思議な国ニッポン | FOOCOM.NET
www.foocom.net/fs/aguri/668/

 上の記事を最初に読んだ時、私はそんなものか(カーソンは間違っていた)と思いました。ところが、オレスケスとコンウェイの「Merchants of doubt」は、カーソンへの攻撃を修正主義と断じています。(書評 http://d.hatena.ne.jp/kenjiito/20120109/p1 公式サイト http://www.merchantsofdoubt.org/

 一方で、英国の医学誌「The Lancet」は05年8月27日付けでDDTに関する総説を掲載した(ウェブサイトで登録すれば、無料で論文を読める)。ヒトへの発がん性を示す確たる証拠がないこと、神経系や内分泌系への影響も実験結果がさまざまで、はっきりしたことがまだ言えないことなどを書いている。つまり、「『沈黙の春』は、真実ではない恐怖を煽ってDDTを禁止させ、大勢の子どもの命をマラリアで失わせたのではないか」という批判が、浮上しているのだ。
www.foocom.net/fs/aguri/668/


 FOOCOMの記事をざっと読むと、ランセットの論文もDDTの毒性に疑問を投げかけている、というように解釈出来ます。2005年8月27日付のランセット誌はVol 366 No 9487で、この中でDDTを論じているのはRogan and Chen: 763-773 です。奇しくも、オレスケスらも同じ論文を参照していますが、上で引用した記事とは随分違ったことが書かれています。

A recent review in the Lancet - the world's leading medical journal - concluded that when used at levels required for mosquito control, DDT causes significant human impacts, particularly on reproductive health. (This is not surprising, given that some of the earliest evidence against DDT was that it interfered with reproduction in birds and rats.) Abundant scientific evidence reveals DDT's impact on child development, including preterm birth, low birth weight, and possible birth defects. High concentrations of DDT in breast milk are correlated with shortened duration of lactation and early weaning - itself highly correlated with infant and childhood mortality. The Lancet authors conclude that any saving of lives from malaria might well be abrogated by infant and early childhood mortality caused by DDT (58). Some lives might have been saved by continued used of DDT, but others would have been lost.
(58はRogan and Chenの総説)
Oreskes and Conway, Merchants of doubt, Bloomsbury 2010


 ではもとの論文は何を言っているのか?アブストと最終章を抜粋します。
Health risks and benefits of bis(4-chlorophenyl)-1,1,1-trichloroethane (DDT)
Rogan and Chen, Lancet 366: 763-773 (2005)

Abstract
DDT (bis[4-chlorophenyl]-1,1,1-trichloroethane) is a persistent insecticide that was used worldwide from the mid-1940s until its ban in the USA and other countries in the 1970s. When a global ban on DDT was proposed in 2001, several countries in sub-Saharan Africa claimed that DDT was still needed as a cheap and effective means for vector control. Although DDT is generally not toxic to human beings and was banned mainly for ecological reasons, subsequent research has shown that exposure to DDT at amounts that would be needed in malaria control might cause preterm birth and early weaning, abrogating the benefit of reducing infant mortality from malaria. Historically, DDT has had mixed success in Africa; only the countries that are able to find and devote substantial resources towards malaria control have made major advances. DDT might be useful in controlling malaria, but the evidence of its adverse effects on human health needs appropriate research on whether it achieves a favourable balance of risk versus benefit.


Future perspectives
DDT was originally banned because of ecological effects, such as eggshell thinning, and accumulation in the environment and organisms, including human beings. Although acute toxic effects are scarce, toxicological evidence shows endocrine-disrupting properties; human data also indicate possible disruption in semen quality, menstruation, gestational length, and duration of lactation. The research focus on human reproduction and development seems to be appropriate. DDT could be an effective public-health intervention that is cheap, longlasting, and effective. However, various toxic-effects that would be difficult to detect without specific study might exist and could result in substantial morbidity or mortality. Responsible use of DDT should include research programmes that would detect the most plausible forms of toxic effects as well as the documentation of benefits attributable specifically to DDT. Although this viewpoint amounts to a platitude if applied to malaria research in Africa, the research question here could be sufficiently focused and compelling, so that governments and funding agencies recognise the need to include research on all infant mortality when DDT is to be used.


 論文の内容を大雑把に言うなら、マラリア防止にDDTは効果的かもしれないが、DDTさえ撒けばいいというものではないし(他にも有効な対策は複数ある)、予防の効果を打ち消すレベルの健康被害をDDTがおこす可能性はあるので散布をするのであれば健康調査とセットで慎重にやるべき、ということでしょう。オレスケスらの要約はやや強引な気がしますが(Rogan and ChenはDDTによる健康被害については断言していない)、よりひどいのは修正主義者の方です。この論文から、カーソンのせいで多くの子供が死んだ可能性を論じられるとは考えられません。実際、FOOCOMの記事で持ち上げられているThe American Council on Science and Healthの科学者は(DDTの有効性を支持する文献を一切挙げずに)この論文を攻撃しています(Lancet 366: 1771-1772 (2005))。そもそもDDTが禁止された理由は(人間でなく)生態系への影響であり、「人間へ影響する証拠がないからDDTを規制するのは間違っている」という意見は悪しき人間中心主義というものでしょう。人間の生活が生態系に依存していることを無視できるのはSFの中だけです。また、DDTが、ほかの薬剤や蚊帳よりもマラリア防御に効果的というデータは存在していないことをRoganらは指摘しています。

 「懐疑の商人」第7章では、DDTの使用と伝染病予防に必ずしも関連がない事、害虫が耐性を迅速に獲得したためDDTの効果も次第に薄れつつあったことなどを指摘し、カーソンへの攻撃のトリックを暴いて行きます。さらに、カーソンへの攻撃を行う修正主義の背景として、「DDT禁止が伝染病を蔓延させたこと」を口実に、その他の化学物質への規制撤廃を目論む産業界の経済的動機を指摘しています。また、オーウェルを引き合いに、過去を支配するものは現在も支配するので、権力は歴史を支配したがるとも(確かに、「日本は捕鯨の優等生」というありもしない過去を効果的に宣伝出来たことは、捕鯨サークルが現在の国内世論を支配出来ている理由の一つだ)。歴史をひもとけば、人間は時代や所属する集団に固有の偏見から逃れられないことがわかりますが、現代の人間が持つ偏見の多くは資本主義社会に生まれ育ったことに起因していると考えられます。

 産業界の利益を代表した修正主義はカネの絡む利害関係がわかりやすいものですが、それでもなお私が最初にFOOCOMの記事を見てから背景を理解するのに数年かかりました(オレスケスが本を書かなければ永久に知らなかったかも)。自分がよく知らない議論について、双方の言い分を良く聞き、専門家の意見を尊重するのは常識的な判断だと思いますが、そこにつけ込まれたわけです(例えば捕鯨問題の鯨研 vs. 民間団体グリーンピースという構図だと、専門家に近いと思う方に説得力を感じてしまうだろう。トーダイのエラいキョージュがプッシュしていたゲンパツがどれだけデタラメなシロモノだったかは今分り始めたところだが)。私は「沈黙の春」に関する議論にずっと集中していたわけではありませんが、だからこそ余計に時間がかかりました。自分が懐疑論と修正主義を見分ける力をつけるにはどうすれば良いのか、実に悩みどころです。出来るのは、懐疑を表明しているのが本当にその問題を論じる資質を持った専門家なのか吟味してみる位でしょうか。The American Council on Science and Healthというのがどういう団体なのか調べてみる価値はありそうです。査読を経た論文だけに情報源をしぼれば知識の正確さは増すでしょうが(実際そうしていれば捕鯨問題でも、この「沈黙の春」論争でも、より短時間で適切な見解にたどり着けたと思う)、仕事に関係ない論文を読むのは大変なので、それだけでは現実に対応出来ない気がします。

 懐疑論と修正主義の見分け方をいま思案中。
スポンサーサイト

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://3500131221.blog120.fc2.com/tb.php/116-26aa3ac7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。