3500-13-12-2-1

ツーリングの記録等に使おうと思っていたが。。。タイトルは最初の記事の3500km, 13日, 12ヶ国, 自動二輪, 空冷単気筒の意。

3500-13-12-2-1(前編)

ここにあることは、まあ、大体そのとおり起った。 ?カート・ヴォネガット・ジュニア「スローターハウス5」


列車
メンデルの名を冠した列車
トラム駅
修道院前のトラム駅

 前駆症状
 私がブルノを訪れるのは2度目です。昨年ウイーンに行ったついでに電車でブルノ観光に行ったのですが、そのときガイドブックを丹念に読んでいればメンデルの修道院についても書いてあったし、ずっと前に今回の下敷きとなる「メンデルの足跡を訪ねて」も読んでいたのですが、完全に忘れていたため、その時はメンデル詣でをしなかったのです。全くもって汗顔の至りではありますが、このとき私が如才なく修道院を見物していたら今回のような事にはならなかったでしょう。是非、ショウジョウバエ通信No.17の伊藤啓氏による「メンデルの足跡を訪ねて」とあわせてご覧下さい。

3500-13-12-2-1(前半戦)

この物語はやがて訪れるであろう後継者、つまり君のために用意された物語だ ?押井守「迷宮物件」



 私のいるバーゼルから見ると、チェコにあるメンデルゆかりの地はブルノ、オロモウツ、ヒンチーチェの順になり、これはチェコでのメンデルの履歴の丁度逆になります。全く気温が上がらず夏らしくなかったまま迎えた九月、ありったけの冬装備をして愛機カワサキエリミネーターを駆って一路ブルノへ。出来るだけ多くの国をめぐる計画なので、リヒテンシュタインとオーストリアを経由してドイツに入り、三日目にブルノ着。チェコは関東平野を拡大したようなところで、小排気量のエリミネーターでもサクサク進む事が出来ます。ブルノのホテルに滞在して修道院とオロモウツを訪問しました。
温室跡
「温室跡」
修道院
修道院庭
メンデル像
メンデル像
豆とメンデル
メンデルと豆
百葉箱
メンデルは気象観測もしていた

 ブルノは割と大きな都市ですが主な観光ポイントは駅周辺に集中しており、メンデルの修道院も駅から歩いて15分程度のところにあります。入ってすぐ目につくのが温室の跡地ですが、92年に訪問した伊藤さんの記述では「いまは跡形もない」となっています。どうやらこの跡地は新規に竣工されたもののよう。記念館前の猫の額ほどのスペースには、P, F1, F2, F3を表現した植え込みがあったそうですが、現在はP, F1, F2の簡単なものになっており、余ったスペースには無性生殖するものや、ミトコンドリアの遺伝子が花色を決定する等の「遺伝学的植物」が植えられていました。
花壇
花壇
花壇2
花壇、別角度から
入り口
博物館入り口
内部
内部

 記念館は小さなものですが、展示内容については現在も試行錯誤が続けられているようです。隅にあるパソコンではショウジョウバエの遺伝学についての解説を見る事が出来ます(チェコ語)。「メンデルの足跡を訪ねて」の中で紹介されている「日本経由のメンデルのブドウ」ですが、尋ねてみたところ残念ながら記念館には植えられていないそうです。スペースの問題もあるのでしょう。係りの人に自分が専門家であることをアピールしたりすると特別にメンデルの部屋や図書館等も見せてくれるようです(私はやりませんでしたが)。ブドウといえば街ではBurcakという白ワインの出来かけのような飲み物(甘くてアルコール分低め)が飲まれていました。

 ブルノにあるメンデル関連の場所ではもう一つ、墓地があります。町外れの中央墓地(Ustredni hubitov)にはトラムで行けますが、駅からタクシーを使っても高くはありません。だってチェコだもの。メンデルの墓は北東の隅にあるのでわかりやすいです(実際は墓所の管理人に教えてもらわなければわからなかった。その後東ヨーロッパ各地でも思ったが、ドイツ語を少しでも勉強していて良かった)。墓は修道院の関係者がまとめて葬られているのですが、メンデルはその中では最古参の一人で、前任のナップ司教は見つけられませんでした。本来なら訪問の証として「北関東爆殺連合参上 南無阿弥陀仏」とスプレーでタギングを行いたいところですが、宗派の違いを考慮して墓地の入り口で購入した蝋燭を捧げるにとどめました。墓地のそばにはこれまた豆の木が生えており、豆を墓に降らせていました。墓参りといえば、文芸ジャンキーパラダイスの人もここを訪れていました。
墓地
中央墓地
墓
神聖墓所
墓2

墓3


 メンデルは1851-53の間、ウイーンに留学しドップラーのもとで物理学、Franz Ungerのもとで植物学を学んでいます。また、記念館の記述によれば、実験と数学モデル化による自然科学研究を提唱していたウイーン大学のAndreas Baumgartnerという人の影響も受けているようです。こういったバックグラウンドが、1)純系を用い、2)結果を数学的に解析するというパイオニアワークに寄与しているのでしょう。メンデルの思想形成にはウイーン留学こそ重要な鍵となっているので、是非ウイーンにも再訪したいものです。

 うおりゃー大橋氏による学習漫画(あとがきもおもしろい)にもなっているように、現在では小学生すら何となく理解できるメンデルの発見の意義は、何故当時理解されなかったのでしょうか。おそらく、遺伝を司る具体的機構が何もわかっていなかった当時、メンデルの法則に例外も多くある事から、何事にも慎重な科学者はメンデルの説を直ちに受け入れる事はしなかったのではないかと思います。

人間に恐ろしいのは未知の事柄だけだ。だが未知も、それに向って挑み掛かる者にとってはすでに未知ではない、ことに人が未知ををかくも聡明な慎重さで観察する場合はなおのこと。 ?アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「人間の土地」



 翌日の火曜日、電車でオロモウツへ。ブルノーオロモウツ間を直接結ぶ電車は2時間に一本あり、2時間弱で両都市を連絡しています。インターネットの発達した現在では情報を簡単に仕入れる事が出来、wikipediaにはオロモウツのMahlerova通りにメンデルのレリーフがあると記されています。地図をみるとこの通りは観光中心の広場のすぐそばで、狭い通りをゆっくり歩いて行くとあっけないほど簡単にレリーフを見つける事が出来ました。レリーフのある建物は現在は大学らしく、重厚な木の扉を開けて中に入ってみると受付があります。受付の老婆にプリントアウトしたチェコ語のウィキペディアの記事を見せつつ尋ねてみると、彼女は英語を話さないのですが、「メンデル ハイスクール」の単語に「アノ」と答えたので、まあ、ここがメンデルの通った高校なのでしょう。
通り
Mahlerova通り
廃墟
通りの廃墟
レリーフ
意外と小さい
大学
メンデルの通った高校
大学2
現在は大学
時計
オロモウツの広場
塔
オロモウツの広場2

 水曜日にブルノのホテルをチェックアウトして生地ヒンチーチェへ。途中、Plumlov Palaceという建物をちょっと見てみました。これはメンデルとは何の関係もなく、単にガイドブックの写真が非常に綺麗だったからです。観光ガイドでは晴れの日、湖に建物が映り非常に綺麗に見えますが、曇天下、「千と千尋の神隠し」に出てくるような門をくぐって遭遇した実際の建物は博物館とはいえ半廃墟でした。幽霊屋敷です。
道
チェコはいつでも曇り
門
門をくぐると
パレス
幽霊屋敷
パレス2

パレス3


 伊藤さんが苦労して見つけてくれたお陰で、ヒンチーチェもあっさり見つける事が出来ました。私が買った60万分の1の地図にHynciceはありませんが、Odry (Odrau)、Novy Jicin (Neutitschein)はあるし、予めグーグルマップでHynciceを確認しておいたので迷うことなくたどり着けました。Hynciceの近くの村もメンデルの生地の近くという看板を出していましたが、はたしてそれは村おこしになるのでしょうか。Hynciceに入ると消防団の建物がすぐに見えました。「伝承の通りだ」とムスカのように小躍りしつつメンデルの生家へ。曲がりくねった坂道を上りきる手前にメンデルの生家が佇んでいました。破風によれば58番地ですが、この家の現在の番地は93か94だったため混乱しました。が、村人の話や写真との対応でここが生家であることが確認できました。Hynciceは寒村で、村はずれにはいくつもの廃屋がありました。しかしバスが通っているので、公共交通機関を利用してもこの寒村までたどり着けると思います。
近隣の村
近隣の村もメンデル自慢
ヒンチーチェ
ヒンチーチェ
消防団
「伝承の通りだ!」
村
村はずれから。生家は画面奥
廃屋
村はずれの廃屋
生家
生家
生家2
生家2

 今回のメンデル参りは「メンデルの足跡を訪ねて」を参考にしたため非常に楽でした。当初は低スペックマシンを使って教祖詣でをするとご利益があるのではないかと期待していましたが、やはり学問というのは不断の努力を続ける人間にこそご利益があるものだと思います。そもそも我らが教祖は社会的地位こそ高かったものの学者としては不遇だったわけで。メンデルの生家は坂を登ったところにありますが、そういえば日本の国立遺伝学研究所も坂を登ったところにあります。

オレはようやくのぼりはじめたばかりだからな。
このはてしなく遠い遺伝坂をよ… 未完 とかいったりして。

後半戦は遺伝学とは何の関係もない東欧ツーリングの話になります。
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