3500-13-12-2-1

ツーリングの記録等に使おうと思っていたが。。。タイトルは最初の記事の3500km, 13日, 12ヶ国, 自動二輪, 空冷単気筒の意。

チリのサケ(おかわり)

(前の記事の補足みたいなものを書いていたらもうハフポストに続報が出て、しかも参考文献がかぶってた。。。)

チリ産サーモンは、抗生物質のスープの海で泳いでいる!?~過剰使用が世界規模で健康を脅かす可能性
http://www.huffingtonpost.jp/konomi-kikuchi/chile-salmon-antibiotics_b_10314356.html

 サケ養殖一般に、病気や寄生虫の拡散、野生種との交配による遺伝子汚染などの問題があることは広く知られている。
Hatcheries and endangered salmon
Myers et al., Science 303:1980 (2004)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15044790

Undermining Science
Shulman, University of California Press (2006)

沈黙の海
ロヴィーン 新評論 (2009)

 チリで養殖されているサケはチリにおいては外来種であり、ケージから逃げ出した個体の野生化が引き起こす問題などがある。外来サケの増加に伴う在来魚種の減少、寄生虫や病気の拡散、外来サケの野性化と定着などの問題が論じられており、また逃げ出したサケの所有権を巡って社会的な問題が起きていることも指摘されている。
Escaped farmed salmon and trout in Chile: Incidence, impacts, and the need for an ecosystem view
Sepúlveda et al., Aquacult Environ Interact 4: 273 (2013)
http://www.int-res.com/articles/aei2013/4/q004p273.pdf

 チヌークサーモンは定着に成功しており(Ciancio et al, 2005; Di Prinzio et al, 2015)、外来サケの捕食による在来魚の減少も確認されている(Arismendi et al, 2009)。
Natural colonization and establishment of a chinook salmon Oncorhynchus tshawytscha, population in the Santa Cruz River, an Atlantic basin of Patagonia
Ciancio et al., Environmental Biology of Fishes 74: 219 (2005)
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10641-005-0208-1

Disentangling the contributions of ocean ranching and net-pen aquaculture in the successful establishment of Chinook salmon in a Patagonian basin
Di Prinzio et al., Environmental Biology of Fishes 98: 1987 (2015)
http://link.springer.com/article/10.1007/s10641-015-0418-0

Aquaculture, non-native salmonid invasions and associated declines of native fishes in Northern Patagonian lakes
Arismendi et al., Freshwater Biology 54: 1135 (2009)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2427.2008.02157.x/abstract

 Buschmannらはチリのサケ養殖の概説の中で、産業の急速拡大により規制が時代遅れのものとなっていること、養殖場の環境影響評価法の不備、薬剤使用の実態の不透明性、研究の不足などの問題点を挙げている。また抗生物質の使用量についてもノルウェーと比較して桁違いに多いことを指摘し、生態系などへの影響を懸念している。
Salmon aquaculture and coastal ecosystem health in Chile: Analysis of regulations, environmental impacts and bioremediation systems
Buschmann et al., Ocean & Coastal Management 52: 243 (2009)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0964569109000350
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 チリのサケ養殖会社は複数あり、報道によると薬剤の使用量も会社ごとに違うようだが、日本のスーパーマーケットで目にするチリ産サーモンに養殖会社まで明記されている物があるのだろうか(少なくとも私の近所では単に「チリ産 養殖」としか表記されていない)。
Chile's embattled salmon industry up antibiotic use in 2015: Government
http://www.channelnewsasia.com/news/world/chile-s-embattled-salmon/2863512.html

Among large seafood companies, Australis Seafoods reported the most intense use of antibiotics, using 1,062 grams per tonne of fish. Cermaq, owned by Japan's Mitsubishi Corp , reported the lightest use, with 391 grams per tonne.


 抗生物質を懸念する声にも科学的根拠はある。Forttらによるスペイン語の論文だが、英語のアブストラクトがあるので問題の要点は理解できる。
Residuos de tetraciclina y quinilona en peces silvestres en una zona costera donde se desarrolla la acuicultura del salmón en Chile
Fortt et al., Rev Chil Infectol 24: 14 (1997)
http://www.scielo.cl/pdf/rci/v24n1/art02.pdf

Residues of tetracycline and quinolones in wild fish living around a salmon aquaculture center in Chile

The presence of residues of tetracycline, quinolones and antiparasitic drugs was investigated in wild fish captured around salmon aquaculture pens in Cochamó, Region X, Chile. Residues of both antibiotics were found in the meat of two species of wild fish that are consumed by humans, róbalo (Scorpaena hystrio) and cabrilla (Elginops maclovinus). These findings suggest that the antibiotic usage in salmon aquaculture in Chile has environmental implications that may affect human and animal health. More studies are needed in Chile to determine the relevance of these findings for human and animal health and the environment to regulate this use of antibiotics.


 またハフポストの記事で紹介されていたが、最近のレビューもある。
Antimicrobial use in aquaculture re-examined: its relevance to antimicrobial resistance and to animal and human health
Cabello et al., Environmental Microbiology 15: 1917 (2013)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23711078

 養殖で使われる抗生物質の大半は環境中に拡散し、水中環境から陸上生物ひいては人間の健康まで脅かすというのは「沈黙の春」の筋書きそのまんまである。とくにチリでは多種類の抗生物質の使用が許されており、そして使用の実態は不明である。前出記事のCermaqの391g/tでもまだかなり多い方だ。
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While Norway, the United Kingdom and Canada used approximately 0.0008 kg, 0.0117 kg, and 0.175 kg, respectively, of antimicrobials for each metric ton of salmon produced in 2007, Chile used at least 1.4 kg per metric ton


 抗生物質の大半は餌に混ぜて与えられ、注射されるのはごくわずか(おやおや、何かの記事ではまるで全部注射してるみたいな印象を受けたぞ)。これも会社や養魚場ごとにどのように処方しているかは異なるし、実態も不明ということだろう。

Antimicrobials used in aquaculture are administered to fish mostly in food and only rarely by injection or bath


 論文では、養魚場周辺のバクテリアは抗生物質に対する耐性を獲得していること、耐性に関わる遺伝子は抗生物質のない環境下でも微生物の適応度を上げる可能性があることが論じられている。つまり、抗生物質による選択圧がなくなれば耐性遺伝子も急速に失われるという王道セオリーに反し、選択圧がなくても耐性が保持されうる例があることが示されている。微生物に起きた変化は、養魚場周辺の野生の魚貝にも影響する。さらに、抗菌剤耐性に関わる遺伝的要素が養魚場周辺の水圏微生物から陸圏微生物や人間への病原まで伝播する可能性があることが論じられている。要するに、養殖サケを全く食べなくても、サケ養殖で野方図に使われる抗生物質が生み出した耐性病原菌が人類を含む生物の健康を脅かす可能性があるということである。食品としての養殖サケにも、残留抗生物質の危険性がある。抗生物質が腸内細菌に与える影響が論じられ、養殖魚を取り扱う労働者はとくに抗生物質と耐性菌に曝露されやすいと指摘している。

These novel antimicrobial resistance elements may ultimately reach human pathogens and complicate therapy of infections caused by them


These considerations suggest that excessive aquacultural use of antimicrobials may potentially have major effects on animal and human health as well as on the environment.


 チリのサケ養殖に多くの深刻な問題があることは多数の科学論文の蓄積が示とおり明白だが、なぜかデマ扱いされる。これと似たことは捕鯨問題でも見てきた。これまた科学論文の蓄積があり、多数の科学者が調査捕鯨やイルカ猟の問題点を指摘し続けているにも関わらず、グリーンピースやシーシェパードなどの活動家への非難の大合唱の中でこうした科学は無視されてきた。

 チリで急速に成長したサケ養殖産業のもたらす経済的利益を考えるなら、養殖の環境影響を懸念する声を押さえ込もうとする力が働くのは当然予想できる。毎度おなじみのサウンドサイエンスイデオロギーである。ブッシュ政権下の米国でも、養豚場周辺で抗生物質耐性を持ったバクテリアが増殖していることを報告しようとした科学者に、研究を発表しないよう圧力がかかったことがUndermining Scienceに紹介されている。

 Baileyが論じるように、利害関係者間での民主主義的意思決定、持続的養殖のための国際基準の設定、小売業者や市場の意思決定などが重要になってくるだろう。消費者の意思表示もまた重要である。持続可能な手法で生産された安全なサケを食べたいという意思表示と消費行動はごく当たり前のことだし、サケ以外にも言える(例えばコンビニや牛丼屋でウナギを食べない、など)。因にチリのサケ養殖は独裁体制下で始まったもので、チリの民主化とともにその問題点を指摘する声があげられるようになってきたようだ。

Looking for sustainable solutions in salmon aquaculture
Bailey, Etikk i praksis. Nordic Journal of Applied Ethics 8: 22 (2014)
http://www.ntnu.no/ojs/index.php/etikk_i_praksis/article/view/1801/1830 【“チリのサケ(おかわり)”の続きを読む】
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サケを追う:reprise

 以前に米国ノルウェーのサケ養殖の問題点について言及したのですが、今度はチリ産養殖サケがネットで話題になりました。
参考記事
http://lastline.hatenablog.com/entry/2016/05/30/174858

 まず食品としての安全性を論じたものから見ていきましょう。特に話題になったのは2004年にサイエンスに発表されたHitesらによるもので、養殖サケに蓄積した汚染物質の危険性を論じています。これについては後に誌上で議論されており、養殖サケを多く食べているノルウェーで特に健康問題が起きていないことや、魚食を減らすデメリットと魚を食べることのベネフィットなどが論じられています(Science 305: 475 (2004))。
Global assessment of organic contaminants in farmed salmon
Hites et al., Science 303: 226 (2004)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14716013

魚食の健康への影響をレビューしたのはMozaffarian & Rimm (2006)で、当時の証拠からは、養殖サケは野生のものよりややリスクが高いながらも全体としてリスクを上回るベネフィットがあるとしています。
Fish Intake, Contaminants, and Human Health: evaluating the risks and the benefits.
Mozaffarian & Rimm, JAMA 296: 1885 (2006)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17047219

比較的最近でも、養殖サケの汚染と健康問題を論じたものはあります。
The role of persistent organic pollutants in the worldwide epidemic of type 2 diabetes mellitus and the possible connection to Farmed Atlantic Salmon (Salmo salar)
Crinnion, Altern Med Rev 16: 301 (2011)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22214250

 PCBなどによる汚染の影響は調査されていますが、残留抗生物質についてはまだよくわかっていないようです。食品としての安全性を論じた場合、リスクとベネフィットのバランスの話になるのは当然で、養殖サケ全般が食用に適していないことを示す科学的理由なんてものを見つけるのは非常に困難でしょう。

 ところが食品としての安全性ではなく、野生のサケなど自然環境への影響に注目した場合、養殖は深刻な問題を引き起こしていることがわかります。問題は大まかに以下の4つに分類できます(Bailey 2014による)。
1)養殖サケにつく寄生虫や病気の問題
2)POPsや抗生物質、餌や糞を通して水中に放出される栄養分などの問題
3)病気や寄生虫の伝播や、交配による遺伝子汚染など、養魚場近傍の野生のサケへの影響
4)養殖魚や餌の移動にからむより広範囲な生態的影響(チリではアトランティックサーモンは外来種)

養殖サケが野生のサケの生存を脅かすことや、行政と司法の問題など。
Hatcheries and Endangered Salmon
Myers et al., Science 303:1980 (2004)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15044790

養殖サケを自然界に放たないことが緊急の課題である。
Genetic and ecological effects of salmon farming on wild salmon: modelling from experimental results
Hindar et al., ICES Journal of Marine Science 63: 1234 (2006)
http://icesjms.oxfordjournals.org/content/63/7/1234.abstract

養殖サケを逃がさないことの重要性はここでも論じられています。
Incidence and impacts of escaped farmed Atlantic salmon Salmo salar in nature
Thorstad et al., (2008)
http://www.fao.org/docrep/016/aj272e/aj272e00.htm

サケ養殖を持続可能なものにするために何が必要かが論じられるということは、現状は持続可能なものではないということです。
Looking for sustainable solutions in salmon aquaculture
Bailey, Etikk i praksis. Nordic Journal of Applied Ethics 8: 22 (2014)
http://www.ntnu.no/ojs/index.php/etikk_i_praksis/article/view/1801/1830

・チリのサケ養殖は環境にどう影響しているのか?

抗生物質の環境への漏出など、サケ養殖が海洋保護と相容れないことを指摘。
Marine conservation in Chile: Historical perspective, lessons, and challenges
Fernandez & Castilla, Conservation Biology 19: 1752 (2005)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1523-1739.2005.00277.x/full

底性生物多様性への影響、赤潮の発生、固有生物への影響などを指摘し、影響調査の必要性を説く。
A review of the impacts of salmonid farming on marine coastal ecosystems in the southeast Pacific
Buschmann et al., ICES Journal of Marine Science 63: 1338e1345 (2006)
http://icesjms.oxfordjournals.org/content/63/7/1338.full

養殖産業に対して科学に基づく有効な規制がないことを指摘。不透明性のため、薬剤の使用についても実態は不明である。
Salmon aquaculture and coastal ecosystem health in Chile: Analysis of regulations, environmental impacts and bioremediation systems
Buschmann et al., Ocean & Coastal Management 52: 243 (2009)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0964569109000350

The agency’s immediate goal should be to fund research required to develop a transparent, ecosystem-based regulatory framework that promotes IMTA. Monitoring programs and licensing procedures must consider the impacts of individual sites and the cumulative impacts from multiple sites across a wide range of spatial scales. Before such changes are realized, environmental threats and human health risks will remain unacceptably high and salmon farming in Chile will not meet any reasonable definition of sustainability.



逃げ出した養殖サケ類の増加と、サケの捕食などによる在来魚の減少を報告。
Aquaculture, non-native salmonid invasions and associated declines of native fishes in Northern Patagonian lakes
Arismendi et al., Freshwater Biology 54: 1135 (2009)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2427.2008.02157.x/abstract

多数の養殖魚が毎年自然界に逃げ出しており、生態系への影響が懸念されている。養殖業者と漁師の対立など社会問題も。
Escaped farmed salmon and trout in Chile: Incidence, impacts, and the need for an ecosystem view
Sepúlveda et al., Aquacult Environ Interact 4: 273 (2013)
http://www.int-res.com/articles/aei2013/4/q004p273.pdf

 養殖サケの食品としての安全性についてはなかなか結論できない一方で、養殖の環境への悪影響は厳然と存在します。食い物としての安全性だけが大騒ぎされることで、より明白で緊急に対応するべき重要な問題が見えにくくなってしまいます。こうしたことは遺伝子組み換え作物についても同じかもしれません。メディア上の議論で焦点になるのは食物としての安全性ばかりで、環境や社会的影響が議論されることはあまりありません。しかし遺伝子組み換え作物問題の本質は、サケ養殖と同様に、それが社会の中でどのように運用されるか(たとえば農民漁民の生活、食糧生産体制、人間以外の生物への影響など)にあるのではないかと思います。

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おまけ

ニセ科学批判=無能の法則
ホメオパシーとかEM菌とか江戸しぐさとか水素水ごときにいちいち大騒ぎする連中はこういう科学と社会の関わる問題で必ずまともな答えを出さないという法則。捕鯨沈黙の春とマラリアチョウの放射線被曝研究などでみられる。というかsalmoを名乗って外来種云々しておきながらサケ養殖の話題で野生種保護の話をしないってどういうことだ。

https://twitter.com/hidetoga/status/737113190077587456
https://twitter.com/usg_ringo/status/737074969125912576
https://twitter.com/yu_kubo/status/737042680123777025
https://twitter.com/doramao/status/737061462057701376
https://twitter.com/invasivespeacie/status/737222703111757825
https://twitter.com/sakamotoh/status/736826059199414272

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